オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ 第26話
【今回の見どころ】
今回のテーマは、「始める前が一番やる気に満ちている男」です。
同級生との飲み会で少しだけ焦りを感じたマサシ。
「今の俺に必要なのは資格だ!」
と決意するまでは良かったものの、今回も真っ先に始めるのは勉強ではありません。
まず向かったのは文房具店。
高級ボールペン、上質なノート、蛍光ペンなどを吟味し、
「書き心地、完璧。」
と道具選びに全力投球します。
さらに帰宅後は机を徹底的に掃除し、文房具を几帳面に並べ、ドリップコーヒーまで用意。
勉強を始める前の”儀式”だけは、まるで一流のビジネスマンそのものです。
そして、ようやくテキストを開いたと思えば、勉強した時間はわずか3分。
「仕事は段取り八分。」
「ここまで準備した時点で、今日のタスクは実質完了だ。」
という、自分に都合の良すぎる理論には思わず笑ってしまいます。
最後に表示される
「今日の学習時間:3分」
という現実と、
「机の上だけは、とても優秀なビジネスマンだった。」
という締めの一文が、今回のテーマを見事に表現しています。
資格取得を目指したはずが、いつの間にか”勉強する環境づくり”そのものが目的になってしまう――そんな経験に共感する方も多いのではないでしょうか。
【本文】
久しぶりに参加した同級生との飲み会。
そこでマサシは、少しだけ現実を突きつけられていた。
「俺、今は営業やっててさ」「転職して年収も上がったよ」
そんな会話を聞きながら、マサシは笑顔で相槌を打っていたが、心の中ではほんの少しだけ焦りを感じていた。
(みんな、ちゃんと社会で生きてるんだな……)
翌朝。
珍しく午前中に目が覚めたマサシは、ベッドの上で天井を見つめながら静かに考える。
「焦る必要はない……」
「だが、止まっているわけにもいかない」
そしてゆっくりと体を起こし、拳を握る。
「今の俺に必要なのは――武器だ」
「そう、資格だ!」
思い立ったマサシは、すぐに行動に移す。
だが、まず最初に考えたのは勉強内容ではなかった。
「環境づくりが重要だ」
「モチベーションを高める環境こそ、成功への第一歩」
そう自分に言い聞かせると、マサシはその足で大型の文房具店へ向かった。
店内の資格試験対策コーナーの前に立つマサシ。
試し書きコーナーで、ボールペンを何本も試す。
「……書き心地、完璧」
彼が選んだのは、少し高価な高級ボールペン。
さらに、発色の良い蛍光ペンセット、厚みのある上質なノートも購入する。
「勉強は道具が大事だからな」
満足げにうなずくマサシ。
帰宅後、今度は部屋の大掃除を始めた。
「部屋の乱れは、心の乱れ」
マサシは数時間かけて机の上を徹底的に片付け、ホコリを拭き取り、文房具を几帳面に並べていく。
机の上には、
資格テキスト、ノート、蛍光ペン、ボールペン。
まるで意識の高い受験生のデスクのような完璧な配置だった。
仕上げに、マサシはドリップコーヒーを丁寧に淹れる。
「よし……」
机の前に座るマサシ。
その表情は、まるで重要なプレゼンを控えたビジネスマンのように真剣だった。
「完璧な環境だ」
「俺の眠れるポテンシャルが……今、解放される」
マサシはゆっくりと資格テキストを開く。
新品のボールペンを握り、最初のページを読み始める。
見出しを確認し、蛍光ペンでスッと一本線を引く。
そして数秒後――
マサシはペンを置いた。
大きく背伸びをし、満足そうに息を吐く。
「……仕事は段取り八分と言うしな」
「これだけ完璧な準備を整えた時点で、今日のタスクは実質ほぼ完了したと言っても過言ではない」
そう言うと、マサシはそっとテキストを閉じる。
淹れたてのコーヒーを片手に、ベッドへダイブ。
スマホを取り出し、動画アプリを開く。
数分後、部屋には動画の音声だけが流れていた。
机の上には、
新品の文房具と整然と並ぶ勉強道具。
スマホの画面には表示されている。
今日の学習時間:3分
――机の上だけは、とても優秀なビジネスマンだった。
【作者コメント】
新しいことを始めようとするとき、人は意外と「始めること」よりも、「始める準備」に夢中になってしまうものです。
参考書を買い、文房具を揃え、机を片付ける。
その時間はとても充実していて、「もう頑張った気分」になることがあります。
今回のマサシは、そんな誰もが一度は経験したことのある”準備で満足してしまう心理”を、少し極端に描いてみました。
もちろん、環境を整えること自体は決して悪いことではありません。
ただ、本当に大切なのは、その机に向かって一ページでも読み進めること。
マサシはそこへたどり着く前に、達成感だけを先に手に入れてしまいました。
「仕事は段取り八分」という言葉を、自分に都合よく解釈してしまうところも、彼らしいポイントです。
もし読んでくださった皆さんが、
「新品のノートを買っただけで勉強した気になったことがある」
「机を片付けたら満足して終わったことがある」
そんな経験を思い出しながら笑っていただけたなら、とても嬉しいです。


