【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第16話|少しだけ、前に進んでいる

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副業を始めてから、しばらくが経った。

最初に感じた“思っていたよりきつい”という感覚は、今も消えていない。

むしろ、それは日常の一部になっていた。

昼は工場。
夜はコンビニ。
そして、その合間に副業。

決して楽な生活ではない。

寝る時間は削られ、気を抜けばすぐに疲れが溜まる。

それでも――

テツヤは、やめていなかった。

「……終わった」

パソコンの画面を見つめながら、小さくつぶやく。

一つの作業を終えるまでにかかる時間は、以前よりも少しだけ短くなっていた。

ほんの少しの違い。

でも、それは確かに変化だった。

(……慣れてきたな)

そう思う。

最初は何をするにも時間がかかっていた。

指示の意味を理解するのにも、戸惑っていた。

だが今は違う。

完璧ではない。

それでも、“進み方”が分かってきていた。

ある日の夜。

作業を終えたあと、画面に表示された数字を見る。

報酬。

以前よりも、少しだけ増えていた。

「……ちょっと上がってるな」

驚くほどの額ではない。

だが、確実に“増えている”。

その事実が、じわっと胸に広がる。

(……ちゃんとやれば、変わるんだな)

小さく実感する。

派手な成果ではない。

でも、“ゼロではない”。

それだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。

翌日。

工場での作業中、ふと周囲を見る。

同じ場所。
同じ人たち。
同じ作業。

何も変わっていない。

それでも、テツヤの中では何かが違っていた。

(……前より、ちゃんと考えてるな)

ただ働いているだけではない。

自分の時間の使い方や、これからのことを考えている。

それが、少しだけ自分を変えていた。

夜。

コンビニの休憩時間。

佐藤と顔を合わせる。

「どう?続いてる?」

軽い口調。

テツヤは少し考えてから答える。

「……まだ、やってます」

「いいじゃん」

佐藤は笑う。

「で、どう?」

その問いに、少しだけ言葉を探す。

「……楽じゃないですね」

正直に言う。

「でも、ちょっとだけ分かってきた感じはあります」

佐藤は小さく頷く。

「それで十分だよ」

その言葉が、妙にしっくりくる。

「いきなりうまくいくやつなんていないしさ」

「続けてるやつだけが、少しずつ見えてくる」

シンプルな言葉だった。

だが、今のテツヤにはよく分かる。

帰り道。

夜の街を歩く。

以前と同じ景色。

でも、見え方が少し違う。

(……ほんとに少しだけだな)

そう思う。

劇的な変化はない。

生活も、環境も、大きくは変わっていない。

それでも――

(前よりは、マシか)

そう思える自分がいた。

部屋に戻る。

ノートを開く。

これまで書いてきた言葉の横に、新しく書き加える。

「少し慣れた」
「時間短縮できた」
「報酬、少し増えた」

並べてみると、小さな変化ばかりだ。

でも――

それは確実に“前進”だった。

ペンを止める。

少しだけ考える。

そして、もう一行。

「ゼロじゃない」

静かに書き足す。

その言葉に、少しだけ力がこもる。

(……これでいいのかもしれないな)

そう思う。

大きな成功じゃなくていい。

一気に変わらなくてもいい。

ただ、少しずつでも進んでいるなら。

それでいい。

窓の外を見る。

夜の街。

変わらないはずの景色。

でも、確実に違う。

(……もうちょい、やるか)

小さくつぶやく。

その言葉には、無理も焦りもなかった。

ただ、“続ける理由”が少しだけ増えただけだった。