オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第14話
【前回のあらすじ】
最終面接で不採用となったテツヤだったが、以前のように立ち止まることはなかった。
「やるしかない。」
その思いを胸に、工場での日々を過ごす中、一人の先輩・佐藤と出会う。何気ない会話の中で、佐藤から「副業」という新しい選択肢を教えられたテツヤは、過去の失敗を思い出しながらも、「見に行くだけなら」と冷静に判断する。
就職だけではない、新しい可能性への扉が少しずつ開き始めていた。
【今回の見どころ】
今回のテーマは「先入観を捨てること」です。
過去の失敗から、副業に対して警戒心を抱いていたテツヤ。しかし、実際に佐藤の仕事場を訪れると、そこには想像していたような派手さも甘い話もありませんでした。思い込みではなく、自分の目で見て判断することの大切さを学ぶ、第二章の始まりとなる一話です。
【本文】
「今度、見に来る?」
佐藤にそう言われた日から、数日が経った。
特に連絡が来ないまま、テツヤはいつもの生活を続けていた。
昼は工場。
夜はコンビニ。
だが、どこか意識の中に残っている。
(……どうなんだろうな)
あの“副業”という話。
正直、いいイメージはなかった。
過去に一度、失敗している。
甘い言葉に乗って、結果的に何も残らなかった経験。
それがあるからこそ、慎重になっている自分がいる。
それでも――
(見に行くだけなら)
そう思った自分も確かにいた。
そして、ある日の夕方。
コンビニの休憩室でスマホを見ると、一件のメッセージが届いていた。
佐藤からだった。
「今日、時間ある?軽く見せるよ」
短い文章。
変に押しつける感じもない。
(……どうする)
一瞬だけ考える。
だが、すぐに答えは出た。
「大丈夫です」
そう返信する。
数分後、「じゃあこのあと」と返ってくる。
あまりにも自然な流れだった。
仕事を終え、指定された場所へ向かう。
駅から少し離れた、小さな雑居ビル。
派手さはない。
むしろ、少し古い印象すらある。
(……ここか)
一瞬、足が止まる。
不安がないわけではない。
だが、それ以上に「見てみたい」という気持ちが勝っていた。
深く息を吸い、階段を上がる。
ドアの前。
軽くノックする。
「どうぞー」
中から佐藤の声。
扉を開ける。
中は思っていたよりも普通だった。
デスクがいくつか並び、パソコンが置かれている。
数人の人が、それぞれ何か作業をしていた。
(……え?)
拍子抜けするほど、普通の空間だった。
「お、来たね」
佐藤が手を振る。
「どうぞ、適当に座って」
言われるままに椅子に座る。
周りを見渡す。
誰もこちらを気にしていない。
それぞれが、自分の作業に集中している。
「ここで何してるんですか?」
率直に聞く。
「簡単に言うと、ネット系の仕事」
佐藤はあっさり答える。
「文章書いたり、データまとめたり、ちょっとした営業したり」
曖昧だが、怪しさはない。
むしろ、地味だった。
「……地味ですね」
思わず言う。
佐藤は笑う。
「だろ?でもこういうのが一番続くんだよ」
その言葉に、少しだけ納得する。
派手なものほど、続かない。
それは身をもって知っていた。
「すぐに稼げるわけじゃないけどさ」
佐藤は続ける。
「やった分だけ、少しずつ返ってくる感じ」
テツヤは黙って聞く。
(……普通だな)
正直な感想だった。
夢みたいな話はない。
特別な成功例も出てこない。
でも――
(ちゃんとしてる)
そう思えた。
それが、一番大きかった。
しばらくその場にいて、作業の様子を見る。
誰かが特別扱いされているわけでもない。
地道に、淡々と進めている。
それだけだった。
「どう?」
佐藤が聞く。
「……思ってたのと違いました」
正直に答える。
「もっと、怪しいかと思ってました」
少し笑いながら言う。
佐藤も笑う。
「まあ、そう思うよな」
そのやり取りが、妙に安心できた。
帰り道。
夜の街を歩きながら、考える。
(……どうする)
やるか、やらないか。
それだけの話。
でも、以前とは違う。
焦っていない。
飛びつこうともしていない。
ちゃんと、自分で考えている。
(……悪くないな)
小さくつぶやく。
選択肢があるということ。
それ自体が、少しだけ心を軽くしていた。
部屋に戻る。
ノートを開く。
「副業」という言葉の横に、さらに書き加える。
「続くかどうか」
ペンを置く。
「……やってみるか」
小さく言う。
それは、勢いではなかった。
ただ、「試してみる」という選択だった。
完璧な答えではない。
でも――
確実に一歩だった。
【作者コメント】
第14話で描きたかったのは、「思い込みだけで判断しないこと」の大切さです。
過去に副業で失敗したテツヤにとって、「副業」という言葉には良い印象がありませんでした。しかし今回、自分の目で現場を見たことで、そのイメージは大きく変わります。
派手な成功談や「簡単に稼げる」という甘い話ではなく、目の前にあったのは、地道な作業を積み重ねる人たちの姿でした。その光景は、テツヤがこれまで工場で積み重ねてきた日々とも、どこか重なって見えます。
大切なのは、「副業だから」「就職だから」と決めつけることではなく、自分で見て、考えて、判断すること。その姿勢こそが、この物語を通してテツヤが身につけてきた最大の成長です。
この第14話は、新しい世界へ飛び込む決意を描くだけでなく、「勢いではなく、自分の意思で選択する」というテツヤの変化を象徴する一話となっています。そして、この選択が、この先の成功や試練へとつながっていきます。


