【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第25話|夢を語る人たち

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

「人生って、出会いで変わるんですよ」

カフェで聞いたその言葉が、テツヤの頭から離れなかった。

仕事帰り。

夜の電車。

窓に映る自分の顔をぼんやり見る。

工場。
コンビニ。
副業。

毎日をなんとか回している。

少しずつ前には進んでいる。

でも――

(このままでいいのか?)

その気持ちは、ずっと消えていなかった。

だからこそ、あの言葉が残る。

「収入源を複数持つ時代」

「雇われだけでは限界がある」

その考え自体は、間違っていない気もした。

部屋に戻る。

机に座る。

スマホを見る。

佐藤からメッセージが届いていた。

「今日の人、どうだった?」

短い文章。

テツヤは少し考える。

すぐには返せない。

怪しい気もする。

でも、完全に否定もできない。

それが本音だった。

少し迷ったあと、返信する。

「まだよく分からないです」

すぐに既読がつく。

「まあ最初はみんなそう」

そのあと、さらにメッセージが続く。

「でも、ちゃんと話聞くと結構考え変わるよ」

その文章に、テツヤはスマホを見つめた。

“考え方”。

最近、その言葉をよく聞く。

成功する人。
稼げる人。
自由な人。

そういう人たちは、“考え方”が違う。

カフェの男も、そんな話をしていた。

数日後。

佐藤に誘われ、テツヤは再び集まりに参加する。

今度はカフェではなく、小さなレンタルスペースだった。

部屋には十人ほどの男女がいる。

年齢はバラバラ。

スーツ姿の人。
私服の若者。
主婦らしき女性。

みんな笑顔だった。

妙に距離が近い。

「初めまして!」

「佐藤さんから聞いてます!」

初対面なのに、やたらフレンドリー。

その空気に、テツヤは少し戸惑う。

だが、嫌な感じではない。

むしろ――

少し居心地がいい。

普段の生活では、こんなふうに歓迎されることは少ない。

工場では黙々と作業。
コンビニでは淡々と接客。

“仲間”のような空気は、あまりなかった。

だからこそ、この場所は少し特別に感じた。

前回のスーツ姿の男が前に立つ。

今日はメガネをかけ、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「今日は“働き方”について話したいと思います」

話が始まる。

内容は、意外と普通だった。

終身雇用の崩壊。
物価上昇。
副収入の必要性。

どれもニュースで聞くような話。

だからこそ、否定しづらい。

だが、途中から少しずつ空気が変わる。

「成功する人は、“環境”を変えている」

「誰と関わるかで人生は変わる」

「行動した人だけが未来を変えられる」

周囲の人たちは、大きく頷いている。

時々拍手まで起こる。

その熱量に、テツヤは少し圧倒される。

さらに、成功者の写真が映される。

海外旅行。
高級車。
笑顔の集合写真。

「この方も元々は普通の会社員でした」

「最初は不安だったそうです」

男は穏やかに語る。

でも、その話を聞きながら、テツヤの胸には別の感情も生まれていた。

(……なんか、似てるな)

以前の怪しいDM。

「今だけ」
「行動できる人」
「人生を変える」

言葉は違う。

でも、どこか空気が似ている。

休憩時間。

佐藤が缶コーヒーを渡してくる。

「どう?」

期待するような目。

テツヤは少し迷ってから答える。

「……皆さん、すごいですね」

佐藤は笑う。

「だろ?」

その表情は、本当に嬉しそうだった。

騙そうとしている顔じゃない。

むしろ、本気で信じている顔。

だからこそ、テツヤは余計に苦しくなる。

(佐藤さん、悪い人じゃない)

それは本当にそう思う。

助けてもらった。
支えてもらった。

だから、簡単に否定できない。

でも――

(本当に大丈夫なのか?)

その違和感も消えない。

帰り道。

夜の街。

佐藤は楽しそうに話している。

「最初はみんな不安なんだよ」

「でも、続けてる人って本当に人生変わってるから」

その言葉を聞きながら、テツヤは黙って歩く。

頭の中が整理できない。

夢を語る人たち。

笑顔。
仲間。
可能性。

全部がキラキラして見える。

でも、その奥にあるものが、まだ見えなかった。

部屋に戻る。

ノートを開く。

しばらく考える。

そして、ゆっくり書く。

「居心地は悪くない」

さらに続ける。

「でも、少し怖い」

ペンが止まる。

静かな部屋。

テツヤは、自分が少しずつ“引き込まれ始めている”ことに気づき始めていた。