【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第22話|違和感

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

「将来的には、月収数十万円以上も可能です」

その文章を、テツヤは何度も読み返していた。

うますぎる話。

そう思う。

でも同時に、頭のどこかで考えてしまう。

(……もし本当だったら?)

その気持ちが、なかなか消えない。

工場。

機械音が響く中でも、頭の片隅にはあのメッセージが残っていた。

「今始めた人が有利」
「本気の人だけ」
「将来性のある市場」

その言葉たちが、妙に引っかかる。

(……変われるのかもしれない)

そう思ってしまう。

数日後。

相手とのやり取りはさらに増えていた。

返信は異常に早い。

質問にも丁寧に答える。

しかも、やたらとテツヤを褒める。

「真面目な人は伸びます」
「継続できる人は強いです」
「テツヤさんは向いてると思います」

その言葉を見ていると、少しずつ警戒心が薄れていく。

(……ちゃんと見てくれてるのか?)

今まで、そんなふうに言われることは少なかった。

だからこそ、響いてしまう。

夜。

部屋の机。

スマホに新しい通知が届く。

「もし興味があれば、一度オンライン説明だけでもどうですか?」

さらに続く。

「もちろん強制ではありません」

「簡単な内容確認だけです」

テツヤは画面を見つめる。

“強制ではない”。

その言葉に少し安心する。

(話を聞くだけなら……)

そう思い始める。

だが同時に、どこか引っかかるものもあった。

説明は曖昧だった。

具体的な仕事内容が、はっきりしない。

「市場が伸びる」
「継続型」
「仕組み」

そんな言葉ばかりが並ぶ。

(……結局、何するんだ?)

そう思う瞬間が増えていた。

だが、その違和感を上回るものがある。

“焦り”。

「ここで動かなかったら、また何も変わらないんじゃないか」

その感情だった。

コンビニの休憩室。

深夜。

誰もいない静かな空間で、テツヤはスマホを見ていた。

「現在、参加枠が少なくなっています」

「今月中で締め切る可能性があります」

また、“今だけ”という言葉。

(……急かしてる?)

一瞬そう思う。

でもすぐに別の考えが出てくる。

(人気だからなのかもしれない)

自分の中で、勝手に理由を作ってしまう。

その時だった。

「何見てんの?」

突然の声。

振り返ると、佐藤が缶コーヒーを持って立っていた。

「あ、いや……」

テツヤは少し迷いながらスマホを見せる。

佐藤は画面を見る。

数秒。

そして、少しだけ表情が変わった。

「……へぇ」

短い反応。

その空気に、テツヤは少しだけ不安になる。

「どう思います?」

そう聞くと、佐藤はすぐには答えなかった。

「……んー」

缶コーヒーを開ける。

少し考えてから言う。

「まあ、世の中うまい話って、ゼロじゃないけど」

そこで一度止まる。

「“急かしてくる話”は気をつけた方がいい」

その言葉に、テツヤの胸が少しざわつく。

(……急かしてくる)

確かにそうだった。

「今だけ」
「枠が少ない」
「早い人が有利」

そういう言葉が多い。

「あと」

佐藤はスマホ画面を見ながら続ける。

「仕事内容、ちゃんと分かる?」

その問いに、一瞬答えが止まる。

(……あれ)

改めて考える。

確かに、ぼんやりしている。

稼げる話ばかりで、“何をするか”が曖昧だった。

その瞬間。

胸の奥に、小さな違和感が生まれる。

今まで見ないようにしていた違和感。

でも――

完全には否定できない。

「……でも、もし本当だったら」

テツヤは小さくつぶやく。

その言葉に、佐藤は静かに言う。

「その気持ちが、一番危ないんだよ」

空気が少し重くなる。

テツヤは黙る。

頭の中が整理できない。

怪しい気もする。

でも、期待もしてしまう。

その二つが、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。

帰宅後。

机に座る。

ノートを開く。

しばらく何も書けない。

そして、ゆっくりと書く。

「なんか変」

さらに続ける。

「でも、信じたい」

ペンが止まる。

それが、今の本音だった。

窓の外を見る。

夜の街。

静かなはずなのに、どこか落ち着かない。

テツヤはまだ知らない。

その“違和感”が、これからもっと大きくなっていくことを。