【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第20話|思わぬチャンス

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

「最近、安定してますね」

そのメッセージを見た時、テツヤは少しだけ画面を見つめていた。

以前なら、ミスの指摘ばかりだった。

差し戻し。
修正。
やり直し。

だが最近は違う。

「安定している」
「早くなっている」

そんな言葉が少しずつ増えていた。

もちろん、大きな成果ではない。

収入が急激に増えたわけでもない。
生活が変わったわけでもない。

それでも――

(前よりは、ちゃんとできてる)

そう思えるようになっていた。

夜。

いつものように副業作業を終え、ノートパソコンを閉じる。

すると、一件の通知が届く。

「新規案件のご相談があります」

見慣れない文章。

テツヤは眉をひそめる。

(……相談?)

クリックして内容を見る。

「現在より少し作業量が多めですが、継続案件になります」

「興味があればご連絡ください」

短い文章だった。

だが、その意味は大きかった。

(……俺に?)

少し前まで、ミスばかりしていた自分。

そんな自分に、“継続案件”の話が来ている。

信じられない気持ちだった。

しばらく画面を見つめる。

嬉しい。

でも同時に、不安もあった。

(できるのか?)

今の生活で、さらに作業量を増やせるのか。

また崩れるんじゃないか。

以前の失敗が頭をよぎる。

無理をして、全部が中途半端になる。

あの感覚は、まだ覚えていた。

「……どうする」

小さくつぶやく。

簡単には決められない。

だが、以前と違うことが一つだけあった。

“ちゃんと考えようとしている”。

勢いでは飛びつかない。

でも、怖がって逃げもしない。

その違いが、今のテツヤにはあった。

翌日。

工場の昼休み。

弁当を食べながら、スマホを眺める。

通知画面。

何度も読み返す。

「継続案件」

その文字が、妙に頭に残る。

(……これって、チャンスなんだよな)

きっと、そうなのだと思う。

でも、“チャンス=正解”ではない。

受けるかどうか。
どう調整するか。

それを考える必要がある。

以前の自分なら、勢いで飛びついていた。

「もっと稼げるかもしれない」

その気持ちだけで動いていた。

でも今は違う。

(ちゃんと回せるかが大事だ)

そう考えている。

それだけでも、自分が変わった気がした。

夜。

コンビニの休憩室。

佐藤が缶コーヒーを開けながら聞く。

「どうした?難しい顔して」

テツヤは少し迷ったあと、スマホ画面を見せる。

佐藤は内容を見て、小さく笑う。

「お、来たじゃん」

「……来た、って?」

「継続案件の相談」

「ちゃんと続けてるやつには、だいたい来る」

テツヤは黙る。

(……そういうもんなのか)

「で、やるの?」

佐藤が聞く。

その問いに、すぐ答えは出なかった。

「……まだ考えてます」

正直に言う。

すると佐藤は笑う。

「それでいいと思うよ」

「前のお前なら、即決してただろ」

その言葉に、少し苦笑する。

確かにそうだった。

「焦って増やして崩れるより、“続けられるか”の方が大事」

佐藤は静かに言う。

その言葉が、今のテツヤにはよく分かった。

帰り道。

夜風が少し冷たい。

スマホをポケットから取り出す。

通知画面を見る。

「継続案件」

その文字。

少し前までの自分なら、“遠い世界”の話だった。

でも今は違う。

ちゃんと続けてきたからこそ、ここにある。

(……少しずつだけど)

そう思う。

大きくは変わっていない。

でも、確実に前とは違う場所に来ている。

部屋に戻る。

ノートを開く。

新しいページ。

ペンを持つ。

しばらく考えてから書く。

「新しい案件の相談」

さらに続ける。

「嬉しい」
「でも不安もある」

そして、最後にゆっくり書く。

「どう選ぶか」

ペンを止める。

以前なら、「できるかどうか」だけを考えていた。

でも今は違う。

“自分がどう進みたいか”。

それを考えている。

窓の外を見る。

静かな夜。

(……悪くないな)

そう思う。

まだ途中。

でも、少しずつ世界が変わり始めていた。