【フリーター奮闘記】第26話『形から入る男(壮大な準備運動)』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

久しぶりに参加した同級生との飲み会。
そこでマサシは、少しだけ現実を突きつけられていた。

「俺、今は営業やっててさ」「転職して年収も上がったよ」
そんな会話を聞きながら、マサシは笑顔で相槌を打っていたが、心の中ではほんの少しだけ焦りを感じていた。

(みんな、ちゃんと社会で生きてるんだな……)

翌朝。
珍しく午前中に目が覚めたマサシは、ベッドの上で天井を見つめながら静かに考える。

「焦る必要はない……」

「だが、止まっているわけにもいかない」

そしてゆっくりと体を起こし、拳を握る。

「今の俺に必要なのは――武器だ」

「そう、資格だ!」

思い立ったマサシは、すぐに行動に移す。
だが、まず最初に考えたのは勉強内容ではなかった。

「環境づくりが重要だ」

「モチベーションを高める環境こそ、成功への第一歩」

そう自分に言い聞かせると、マサシはその足で大型の文房具店へ向かった。

店内の資格試験対策コーナーの前に立つマサシ。
試し書きコーナーで、ボールペンを何本も試す。

「……書き心地、完璧」

彼が選んだのは、少し高価な高級ボールペン。
さらに、発色の良い蛍光ペンセット、厚みのある上質なノートも購入する。

「勉強は道具が大事だからな」

満足げにうなずくマサシ。

帰宅後、今度は部屋の大掃除を始めた。

「部屋の乱れは、心の乱れ」

マサシは数時間かけて机の上を徹底的に片付け、ホコリを拭き取り、文房具を几帳面に並べていく。

机の上には、
資格テキスト、ノート、蛍光ペン、ボールペン。

まるで意識の高い受験生のデスクのような完璧な配置だった。

仕上げに、マサシはドリップコーヒーを丁寧に淹れる。

「よし……」

机の前に座るマサシ。

その表情は、まるで重要なプレゼンを控えたビジネスマンのように真剣だった。

「完璧な環境だ」

「俺の眠れるポテンシャルが……今、解放される」

マサシはゆっくりと資格テキストを開く。
新品のボールペンを握り、最初のページを読み始める。

見出しを確認し、蛍光ペンでスッと一本線を引く。

そして数秒後――

マサシはペンを置いた。

大きく背伸びをし、満足そうに息を吐く。

「……仕事は段取り八分と言うしな」

「これだけ完璧な準備を整えた時点で、今日のタスクは実質ほぼ完了したと言っても過言ではない」

そう言うと、マサシはそっとテキストを閉じる。

淹れたてのコーヒーを片手に、ベッドへダイブ。

スマホを取り出し、動画アプリを開く。

数分後、部屋には動画の音声だけが流れていた。

机の上には、
新品の文房具と整然と並ぶ勉強道具。

スマホの画面には表示されている。

今日の学習時間:3分

――机の上だけは、とても優秀なビジネスマンだった。