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【フリーター奮闘記】第22話『ウェルビーイング(精神的な充足)』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

【今回の見どころ】

今回のテーマは、「精神的な豊かさ」と「現実逃避」は紙一重ということです。

宝くじで大勝負に敗れ、財布の中はほぼ空っぽ。

普通なら落ち込む場面ですが、マサシはそこで、

「真の成功とは銀行残高ではなく、心の平穏だ。」

と堂々と宣言します。

いつものように、現実を否定するのではなく、都合よく”価値観そのもの”を作り替えてしまうマサシらしさが、この作品のスタートから全開です。

特に印象的なのは、公園でタンポポを見つめながら、

「生命の躍動」
「魂との共鳴」

などとSNSへ投稿するシーン。

誰もが見慣れた風景を、急に哲学的に語り始める姿は、本人だけが本気だからこそ笑えてしまいます。

そして最大の見どころは、家賃滞納の督促状が届く場面。

普通なら青ざめる状況にもかかわらず、

「宇宙が俺に与えた試練」

と解釈し、そのままシュレッダーへ投入。

ここまで来るとポジティブ思考ではなく、完全な現実逃避ですが、それでも最後までブレないマサシの思考には、思わず笑ってしまいます。

ラストでは、空腹で鳴るお腹の音までも

「宇宙との共鳴」

と受け止めてしまい、「ウェルビーイング最高だな」と締めくくることで、最後まで”精神論だけは最強”というマサシらしいオチになっています。

【本文】

ある日、財布の中を確認したマサシは静かに頷いた。

残金――ゼロ。

数日前、FIREを目指して給料のすべてを宝くじに投資した結果、手元に残ったのは当選金300円だけだった。

普通の人間なら絶望する状況。

しかしマサシは違った。

彼はゆっくりと立ち上がり、力強く宣言する。

「真の成功とは、銀行の残高ではない」

「心の平穏だ」

「俺は今日から――」

「ウェルビーイングを追求する」

そう言いながら、空っぽの財布をポケットにしまう。

つまりこれは貧乏ではない。

精神的ラグジュアリーへの転換なのだ。

その日から、マサシの“精神的豊かさアピール生活”が始まった。

昼下がりの公園。

マサシはベンチに座り、水道水をゆっくりと飲む。

近くにはタンポポが一輪咲いている。

マサシはそれをじっと見つめながら呟く。

「この生命の躍動……」

「物質主義に毒された人間には見えない美しさだ」

そしてスマホを取り出し、SNSに投稿する。

『今、ここにある奇跡。
タンポポの呼吸が、俺の魂と共鳴する。』
#ウェルビーイング
#マインドフルネス
#執着からの解放

投稿を終え、満足そうにうなずくマサシ。

「やはり精神的豊かさが一番だ」

数日後。

季節は真冬。

マサシの部屋は極寒だった。

電気代を節約するため、暖房は完全停止。

マサシは薄い毛布にくるまりながら、床に座っていた。

ガタガタ……

歯が鳴る。

しかし彼は目を閉じ、静かに座禅を組む。

「寒さもまた……宇宙のメッセージ」

そのとき。

ポストに一通の封筒が届く。

差出人――

不動産管理会社。

封筒を開ける。

中には一枚の紙。

「家賃滞納のご案内(督促状)」

マサシの手が止まる。

数秒の沈黙。

しかし次の瞬間、彼は静かに頷いた。

「……これはピンチじゃない」

「宇宙が俺に与えた試練だ」

「執着から解放されるための最終テスト」

そう言うと、マサシは督促状をシュレッダーに入れる。

バリバリバリ。

紙は細かく裁断された。

完全なる現実逃避である。

そのとき。

グゥゥゥ……

空腹で胃が鳴った。

マサシはゆっくり目を閉じる。

「この音……」

「宇宙との共鳴だ」

「俺は今、完全にシンクロしている」

そして再び座禅を組みながら、小さくつぶやいた。

「……ウェルビーイング、最高だな」

【作者コメント】

最近は「ウェルビーイング」という言葉を耳にする機会が増えました。

心の豊かさや幸福感を大切にする考え方は、とても素敵なものだと思います。

ただ、どんな良い考え方でも、都合よく解釈しすぎると、現実と向き合うことから逃げる言い訳にもなってしまいます。

今回のマサシは、その極端な例として描いてみました。

財布が空でも「精神的ラグジュアリー」、督促状は「宇宙からの試練」、空腹は「宇宙との共鳴」。

どんな出来事でも無理やりポジティブに変換できる能力は、ある意味すごい才能なのかもしれません。

しかし、本当のウェルビーイングは、現実から目を背けることではなく、現実を受け止めながら心の豊かさも育てていくことなのだと思います。

笑いながら、「ポジティブも行き過ぎると危ないよね」と感じてもらえたら嬉しいです。