オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第19話
生活を調整してから、数週間が経った。
工場。
コンビニ。
副業。
やること自体は変わっていない。
それでも、以前とは明らかに違っていた。
“崩れなくなった”。
それが一番大きかった。
副業の作業時間を決める。
コンビニのシフトを入れすぎない。
睡眠を削りすぎない。
シンプルなこと。
だが、それだけで生活の流れはかなり変わった。
「……終わった」
夜。
ノートパソコンを閉じる。
時計を見る。
以前のように深夜二時を回っていない。
決めた時間内で終わらせる。
最初は難しかった。
だが、続けるうちに“終わらせ方”を考えるようになっていた。
(前より集中できてるな)
そう思う。
ダラダラ時間を使わなくなった。
「時間がある」ではなく、「この時間でやる」。
その意識だけで、かなり変わった。
数日後。
副業の作業を提出したあと、メッセージが届く。
「今回、作業精度が安定していました。ありがとうございます」
短い文章。
それだけ。
だが――
テツヤはしばらく画面を見つめていた。
(……褒められた?)
ほんの少しの言葉。
でも、それが妙に嬉しかった。
これまでは、ミスの指摘ばかり気にしていた。
差し戻し。
修正。
やり直し。
そればかりだった。
でも今回は違う。
「安定している」
その言葉が、静かに胸に残る。
(……ちゃんと見られてるんだな)
小さく思う。
誰にも気づかれていないような感覚だった。
だが、違った。
続けていることは、ちゃんと積み上がっていた。
その日の工場。
作業をしながら、ふと周囲を見る。
以前と同じ景色。
でも、自分の感覚が違う。
(……前より余裕あるな)
疲れていないわけじゃない。
でも、“潰れそうな疲れ”ではない。
コントロールできている感覚。
それが大きかった。
昼休み。
同僚たちの会話が聞こえる。
「毎日しんどい」
「寝るだけで終わる」
以前なら、自分も同じ感覚だった。
でも今は少し違う。
(……まあ、前よりはマシか)
そう思える。
大きな成功じゃない。
生活も劇的には変わっていない。
それでも、自分の中で確実に変化は起きていた。
夜。
コンビニの休憩室。
佐藤が缶コーヒーを開けながら言う。
「最近、顔変わったな」
「え?」
「なんか前より落ち着いてる」
思わず苦笑する。
「そうですか?」
「うん。前はずっと焦ってた感じだった」
その言葉に、少しだけ考える。
(……焦ってたか)
確かにそうだった。
何かを変えなきゃ。
結果を出さなきゃ。
そんな気持ちばかりが先に走っていた。
でも今は違う。
「……慣れてきたのかもしれないです」
小さく答える。
佐藤は笑う。
「それ、結構大事だよ」
「続けるって、結局“慣れる”ことだから」
シンプルな言葉。
でも、妙に納得できた。
帰り道。
夜風が少しだけ心地いい。
以前と同じ街。
同じコンビニ。
同じアパート。
何も変わっていないはずなのに――
(……なんか違うな)
そう感じる。
変わったのは環境じゃない。
自分だった。
部屋に戻る。
ノートを開く。
これまで書き続けてきたページ。
失敗。
迷い。
不採用。
ミス。
調整。
その全部が積み重なっている。
新しいページを開く。
ペンを持つ。
少し考えてから、書く。
「少しずつ慣れてきた」
さらに続ける。
「前より余裕がある」
「ちゃんと積み上がってる」
書き終えて、少しだけ笑う。
以前なら、こんな小さな変化には気づかなかった。
でも今は違う。
小さいからこそ、大事だと分かる。
窓の外を見る。
夜の街。
静かな光。
(……悪くないな)
そう思う。
まだ途中だ。
成功したわけでもない。
でも――
ちゃんと前には進んでいる。
「……もう少し続けるか」
静かにつぶやく。
その言葉には、以前のような無理な気合いはなかった。
ただ、“自然に続けたい”という気持ちだけがあった。

