オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第9話
【今回の見どころ】
今回のテーマは、「速さよりも、確認が会社を守る」です。
「仕事ができる人間は返信が速い!」
そんな独自理論を掲げる斎藤課長は、メールの中身どころか送信元も確認せず、次々とメールを開いていきます。
そして現れたのは、
「【重要】請求書および見積書の送付について」
という、一見すると本物そっくりのメール。
「A社からか!早いな!」
と喜ぶ課長ですが、タケルが気付いたのは
怪しい送信元アドレス
不自然な日本語
ZIP形式の添付ファイル
という、セキュリティ担当なら思わず冷や汗をかくポイントばかり。
それでも課長は
「俺のビジネスマンとしての直感は本物だ!」
と言い切り、迷わずクリック。
この根拠のない自信が、まさに斎藤課長らしい見どころです。
最後は総務・ミユキによる容赦ない
「PC初期化決定です!」
の一言。
会社の情報は守れたものの、課長が本気で悲しんだのは仕事のデータではなく、
「お気に入りのラーメン屋リストが全部消えた……」
というオチ。
会社を守るタケルとミユキ、そして最後までズレ続ける課長との対比が、この作品の面白さをより引き立てています。
【本文】
「ビジネスはスピードが命だ!メールは即座に開いて即レスしたまえ!」
朝のオフィスで、斎藤課長はいつものように大きな声で部下たちに持論を語っていた。彼にとって“仕事ができる人間”とは、何よりも返信が早い人間のことらしい。実際、課長は受信トレイを開くやいなや、内容もろくに確認せず、片っ端からメールを開いては返信を打つという荒業を披露していた。
「ほら見ろ、もう返信したぞ。これが仕事の速さというものだ!」
得意げに胸を張る課長を横目に、タケルは内心ため息をつく。
(課長……差出人も見ずに開いてますよね……それ、ただの危険行為です)
そんな中、一通のメールが課長の目に留まる。
「おお、A社からか!早いな!」
課長は嬉しそうに画面を指差す。そこには「【重要】先日の請求書および見積書の送付について」という件名のメールが表示されていた。添付ファイルには「invoice.zip」という文字。
しかし、その画面を横から見たタケルの顔色が変わる。
送信元のアドレスは「xyz_999@……」。
さらにメール本文の日本語は、どこか不自然でフォントも微妙に崩れている。
(……これは怪しい)
タケルは思わず声を上げた。
「課長、待ってください!!」
「送信元が怪しいです!ばらまき型マルウェアの可能性があります!」
「添付ファイルがZIPなのも危険です!開いちゃダメです!」
オフィスの空気が一瞬止まる。
しかし斎藤課長は鼻で笑った。
「うるさい!」
「俺のビジネスマンとしての直感は本物だ!」
「重要メールを放置するわけにはいかん!」
そう言いながら、迷いなくマウスを動かす。
カチカチッ
添付ファイルをダブルクリック。
タケルは思わず目を閉じた。
(……手遅れだ)
その瞬間、パソコンの画面が一瞬固まり、妙な警告音が鳴り響く。
「……あれ?」
課長が首をかしげた時には、すでに遅かった。
騒ぎを聞きつけ、総務のミユキがすぐに駆けつける。
「課長、そのPC、触らないでください!」
ミユキは画面を確認すると、即座に宣言した。
「サイバーセキュリティ規定に基づき、このPCは初期化決定です!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」
課長の悲鳴がオフィスに響く。
しかし処置は容赦なかった。
セキュリティ対策のため、PCは強制的に初期化されることになったのだ。
数分後。
画面は真っ白な初期状態に戻っていた。
斎藤課長は椅子に崩れ落ちる。
「ま、待ってくれ……」
「ブラウザにお気に入り登録していた……」
「ラーメン屋リストが全部消えた……」
本気で泣きそうな顔をする課長を見て、タケルは静かに胃薬を取り出す。
(会社の情報漏えいを防げたのは良かったですが……)
(課長のITリテラシーは、まだまだ復旧不能ですね)
こうして、斎藤課長の“即レス主義”は、
会社のセキュリティ教育の新たな教材として語り継がれることになったのだった。
【作者コメント】
最近では、実在する企業を装ったメールや、請求書・見積書を装った添付ファイルによるサイバー攻撃が珍しくありません。
見た目は本物そっくりでも、
送信元アドレスが微妙に違う
日本語に違和感がある
ZIPファイルや実行ファイルが添付されている
など、小さな違和感が重大な事故を防ぐきっかけになることがあります。
今回の斎藤課長は、「スピードこそ正義」という考えから、一番大切な“確認する”という行動を飛ばしてしまいました。
仕事ではスピードも重要ですが、それ以上に重要なのは正確さと安全性です。
もし一人のクリックで会社全体が止まってしまえば、その代償は返信の数秒どころでは済みません。
そして個人的に今回一番気に入っているのは、初期化されて本当に落ち込んだ理由が、
「ラーメン屋リストが消えた……」
だったことです。
会社のデータよりラーメン屋を惜しむあたりが、最後まで斎藤課長らしい一面になりました。
『サラリーマン奮闘記』では、職場で実際に起こり得るトラブルを、少し大げさなコメディとして描いています。
笑って楽しみながら、「自分だったらどうするだろう」と考えるきっかけになれば、とても嬉しく思います。


