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【フリーター奮闘記】第11話 『深夜の自己投資』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

【今回の見どころ】

今回のテーマは、「インプットしているつもり」です。

深夜3時、静まり返ったコンビニ。

「人が寝ている間に学ぶ者が差をつける」

そんな成功者の言葉に感化されたマサシは、分厚いビジネス書『トップリーダーの思考法』を片手に自己投資を始めます。

しかし、ページを開いた瞬間から難解な専門用語の連続。

「俯瞰的視点」「ダイナミズム」などの言葉を前に、

「……何言ってんだこれ」

と早くも思考停止。

それでも諦めずに読み進めようとしますが、気づけばスマホを手に取り、SNSを見て、また本に戻る……を繰り返す姿は、多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

さらに、お客様が来店すると急いでスマホをしまい、本だけを持ち直して“知的な店員”を演出するマサシ。

本人だけが満足しているその見栄も、この作品ならではの笑いどころです。

そして朝。

栞は、まさかの1ページ目。

何時間も手にしていたはずなのに、ほとんど読み進められていないというオチと、

「今日も脳を使ったな」

という妙に達成感あふれる締めくくりが、最後までマサシらしい一話となっています。

【本文】

深夜のコンビニ。
静まり返った店内で、マサシはレジカウンターの中に立っていた。

時計は午前3時。
普通の人ならぐっすり眠っている時間だ。

しかしマサシは、どこか誇らしげな顔で一冊の分厚い本を手にしていた。

タイトルは――
『トップリーダーの思考法』

ビジネス書コーナーに平積みされていた、いかにも成功哲学が詰まっていそうな本である。

マサシは静かにページを開きながら、小さくつぶやく。

「人が寝ている間にインプットする……」

「これが差をつけるコツだ」

レジカウンターの中で本を読む姿は、確かに少しだけ“意識高い人”のように見える。

客も少ない深夜のコンビニ。
今こそ自己成長の時間だ。

マサシは真剣な表情で文章を読み始めた。

――リーダーとは、常に俯瞰的視点を持ち、
組織のダイナミズムを理解しながら、
未来志向の意思決定を行う存在である。

「……」

マサシの眉がゆっくりと動く。

「……?」

もう一度読み直す。

――俯瞰的視点を持ち、ダイナミズムを理解し……

「……何言ってんだこれ」

文章が妙に抽象的で、内容が頭に入ってこない。

それでもマサシは諦めない。

「こういう本はな……」

「何回も読むものなんだ」

そう自分に言い聞かせながら、もう一度ページを読む。

しかし三行ほど読んだところで、自然とスマホに手が伸びてしまう。

SNSを少しチェック。

動画を一つ見る。

そしてまた本に戻る。

一行読む。

あくび。

スマホ。

また一行読む。

そんなことを繰り返しているうちに、時間はゆっくりと過ぎていった。

その時――

コンビニのドアが開く。

「いらっしゃいませー」

マサシは慌ててスマホをポケットに隠す。

そして何事もなかったかのように、ビジネス書を手に持ち直した。

まるでずっと真面目に読書していたかのような表情である。

入ってきたのは、ジャージ姿のヤンキー風の客だった。

マサシは本を軽く閉じながら、少しだけ知的な雰囲気を出す。

(知的な店員アピール……!)

しかし客は、そんなことなどまったく気にしていない。

エナジードリンクとカップ麺を持ってレジへ来るだけだった。

やがて夜が明ける。

朝の光がコンビニの窓から差し込む。

マサシは本を閉じて、静かに息を吐いた。

栞の位置を見る。

――1ページ目。

結局、ほとんど進んでいない。

それでもマサシは満足そうにうなずく。

「ふぅ……」

「今日も脳を使ったな」

そう言いながら、レジの奥で静かに本を棚へ戻すのだった。

【作者コメント】

自己啓発本やビジネス書は、「読めば成長できる」と思って買うことがあります。

でも実際は、難しい内容に苦戦したり、途中でスマホを見てしまったり、読んだだけで満足してしまったりすることも少なくありません。

今回のマサシは、まさにそんな「学んでいる雰囲気」に全力を注ぎました。

深夜に本を読む姿は確かに格好良く見えますが、本当に大切なのは本を持つことではなく、中身を理解して行動に移すこと。

それでも最後まで前向きに、

「今日も脳を使ったな」

と自分を納得させる姿は、失敗しても決して落ち込まないマサシらしさそのものです。

「読むこと」と「成長すること」は違う。

そんな当たり前のことを、笑いに変えて描いた一話になりました。