【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第21話|甘い話

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

「新規案件のご相談があります」

そのメッセージが届いてから、数日が経った。

継続案件。

以前のテツヤなら、迷わず飛びついていたかもしれない。

だが今は違う。

“ちゃんと考える”。

それを覚え始めていた。

工場の昼休み。

弁当を食べながら、スマホを見る。

何度も読み返したメッセージ。

「現在より少し作業量が多めですが、継続案件になります」

その文章は、今でも少し嬉しかった。

(……認められたってことだよな)

そう思う。

続けてきたからこそ届いた話。

それは素直に嬉しかった。

だが同時に、不安もある。

今の生活で回せるのか。
また無理をして崩れないか。

考えることは多かった。

その日の夜。

コンビニの休憩室で、スマホに新しい通知が届く。

「さらに条件の良い案件をご紹介できます」

テツヤは眉をひそめる。

(……さらに?)

メッセージを開く。

「継続報酬型で、今後かなり伸びる案件です」

「本気で取り組める方だけにご紹介しています」

「将来的には月収数十万円以上も可能です」

そこまで読んだところで、テツヤの指が止まる。

(……数十万?)

今までとは桁が違った。

もちろん、すぐに信じたわけではない。

だが――

心が動いたのは事実だった。

「……そんなにいくのか?」

小さくつぶやく。

さらに読み進める。

「やる気のある方限定」
「将来性のある市場」
「今始めた人が有利」

どこか、“選ばれている感覚”を刺激する文章だった。

(……俺でも、変われるのか?)

ふと、そんな考えが浮かぶ。

工場。
コンビニ。
副業。

毎日少しずつ積み上げている。

でも、生活が劇的に変わったわけじゃない。

心のどこかでは、ずっと思っていた。

「もっと変わりたい」

その感情を、まるで見透かしたような文章だった。

部屋に戻る。

ベッドに座り、スマホを見る。

何度も読み返す。

「月収数十万円」
「継続報酬」
「本気の人限定」

魅力的だった。

正直、かなり。

(……でもな)

違和感もあった。

うますぎる話。

本当にそんなものがあるのか。

だが同時に、別の感情も出てくる。

(ここで踏み込まなきゃ、ずっとこのままなんじゃないか)

焦り。

置いていかれる感覚。

それが、少しずつ判断を揺らし始めていた。

数日後。

メッセージのやり取りは続いていた。

相手はやたら返信が早い。

丁寧で、親切。

「テツヤさんは向いてると思います」

「真面目な人ほど伸びます」

そんな言葉を何度も送ってくる。

そのたびに、少しずつ気持ちが傾く。

(……俺、向いてるのか?)

今まで、そんなふうに言われたことはほとんどなかった。

だからこそ、響いてしまう。

さらに相手は続ける。

「今の段階なら、まだ少人数だけです」

「枠が埋まる前に動いた方がいいです」

“今だけ”。

その言葉が、焦りを加速させる。

夜。

ノートを開く。

いつものように考えを整理しようとする。

だが、今日はまとまらない。

「本当にチャンス?」
「うますぎる?」
「でも変わりたい」

書いては消し、また書く。

頭の中が整理できない。

以前なら、勢いで飛びついていた。

でも今は違う。

だからこそ苦しい。

慎重になっている自分と、前に進みたい自分。

その二つがぶつかっていた。

コンビニの帰り道。

夜風が冷たい。

スマホを見る。

新しい通知。

「もし興味があれば、簡単な説明通話もできます」

テツヤは立ち止まる。

しばらく画面を見つめる。

(……どうする)

胸の奥がざわつく。

これはチャンスなのか。
それとも――

考えても、まだ答えは出なかった。

だが、一つだけ確かなことがある。

“気持ちが揺れている”。

それが、今のテツヤだった。

部屋に戻る。

机に座る。

ノートを開く。

ゆっくりと書く。

「うますぎる気がする」

少し間を空ける。

そして、さらに書く。

「でも、変わりたい」

ペンが止まる。

その言葉が、今の本音だった。

窓の外を見る。

静かな夜。

だが、テツヤの中では何かが大きく揺れ始めていた。