【サラリーマン奮闘記】第12話「ハンコへの執着」

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前回、「休日LINE残業申請」という形で理不尽な上司に小さな反撃を成功させたタケル。しかし、斎藤課長の価値観が変わることはありませんでした。

「俺の若い頃はな……」

その口癖とともに語られるのは、いつも決まってアナログ至上主義の武勇伝ばかり。そんな中、会社ではついに「電子決裁システム」が全面導入されます。紙の申請書は廃止され、ハンコも不要。すべての申請や承認は、社内システム上のボタン一つで完結する仕組みです。

若い社員たちは「これで無駄な書類仕事が減る」と歓迎ムード。しかし斎藤課長だけは、露骨に不満顔でした。

「決裁ってのはな!」

「紙にドンッとハンコを押してこそ、責任の重みが生まれるんだ!」

そう言い張る課長は、システムの画面を見ることすら嫌がります。さらにはタケルに向かって、驚くべき指示を出します。

「俺宛ての申請は全部紙で印刷して持ってこい」

「俺がハンコを押すから、それをスキャンしてシステムに添付しとけ」

完全に本末転倒な運用でした。

タケルは心の中で思います。

(……それ、システム導入の意味ないですよね)

しかし反論しても無駄なことは分かっているため、胃を痛めながらも黙って従うのでした。

そして月末。

この日は斎藤課長にとって、ある意味もっとも重要な日です。それは「交際費精算」の締め切り日。課長の交際費の大半は、接待という名のゴルフ代や飲み代でした。

タケルは課長の分の精算データもまとめ、システムに入力して承認ワークフローを回します。

「課長、交際費の精算、システムに上げておきました」

「今日17時までに承認ボタンを押して、経理に回してくださいね」

しかし課長は鼻で笑います。

「電子決裁だと?」

「画面のボタン一つで何十万も動くなんて軽すぎる!」

そしてこう言い放ちました。

「あとで俺が直接、経理部長にハンコ付きの紙を叩きつけてくる」

そう言って、外出してしまいます。

その日の夕方。

17時。

タケルのPC画面には、まだ未承認の表示。

そして――

17時01分。

総務から部署全員に通知が届きます。

『新システム完全移行に伴い、期限内にシステム承認されなかった経費は自動却下されました』

『紙での提出はすべて無効です』

タケルは静かに画面を見る。

斎藤課長の交際費。

358,000円

ステータスは――

「精算不可(自動却下)」

翌朝。

会社に来た斎藤課長は、その画面を見て固まります。

「お、俺の……」

「俺のゴルフ代と飲み代が……全部自腹に……?」

その背後には、総務のミユキが静かに立っていました。

「ですから、システムで承認してくださいと申し上げましたよね」

課長は何も言えません。

自らのハンコ主義が、巨大なブーメランとなって返ってきた瞬間でした。

その光景を見ながら、タケルは机の引き出しからいつもの胃薬を取り出します。

水で流し込み、小さく息をつく。

胃の痛みはまだ残っています。

しかし、心の中では確かに感じていました。

――また一つ、小さな勝利を。