オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ 第12話
休日の昼下がり。
マサシは少し古びたノートパソコンを小脇に抱え、街の中心にあるおしゃれなカフェへと向かっていた。
「家じゃダメなんだよな……」
歩きながら、もっともらしくつぶやく。
「アイデアっていうのは、環境で降りてくるものだからな」
つまり今日は“創作の日”である。
家の狭いワンルームではなく、クリエイターっぽい場所で作業する。
それがマサシなりの戦略だった。
店に到着すると、ガラス張りの店内にはノートパソコンを広げた客が何人もいる。
いかにも“仕事できそうな人たち”の空気だ。
マサシは少しだけ背筋を伸ばし、カウンターへ向かう。
「キャラメルマキアート、エクストラホイップ……」
「チョコソース追加で」
店員に呪文のようなカスタムオーダーを告げる。
値段は――650円。
マサシにとっては少し高いが、今日は“投資”だ。
コーヒーを受け取り、窓際の席へ座る。
外の景色が見える、いかにも作業がはかどりそうな席だった。
マサシはノートパソコンをゆっくりと開く。
「よし……」
その瞬間、どこか満足げな表情になる。
(デキるクリエイター感……!)
周囲の客にもそれっぽく見えるように、キーボードを少し強めに叩く。
カタカタカタ……
そして――
「ッターン!」
やや大げさにエンターキーを押す。
周囲には、仕事に集中している風の雰囲気を演出していた。
しかしパソコンの画面に表示されているのは、ただのデスクトップ。
並んでいるのはフォルダのアイコンだけ。
実際には、まだ何も始まっていない。
それでもマサシは満足そうにコーヒーを一口飲む。
「やっぱ環境だな……」
そうつぶやきながら、窓の外を眺める。
それから30分ほど経った頃。
「さて……」
「そろそろ本腰入れるか」
マサシは背筋を伸ばし、キーボードに手を置いた。
その瞬間――
「プン……」
画面が突然真っ暗になった。
「あれ?」
電源ボタンを押す。
しかし反応はない。
ノートパソコンの画面には小さく表示された文字。
――バッテリー0%
「……え?」
「マジか」
充電器を忘れてきたことに気づく。
しかもこのパソコン、バッテリーがかなり弱っていた。
つまり――
作業終了。
テーブルの上には、半分以上残った冷めたコーヒー。
目の前には、真っ黒な画面。
その画面には、うっすらとマサシの顔が映っていた。
どこか情けない表情の自分。
マサシはそのまましばらく画面を見つめる。
そして小さくつぶやいた。
「……今日は」
「環境だけ整えた日ってことで」
帰るタイミングを失ったまま、マサシはしばらくその席に座り続けるのだった。


