オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第6話
応募ボタンを押したあの日から、数日が過ぎた。
あの時の感覚は、今までとは少し違っていた。
「なんとなく」ではなく、「自分で考えて決めた」応募。
それだけで、結果が出る前から少しだけ気持ちが違っていた。
とはいえ、生活は何も変わらない。
昼は工場。
夜はコンビニ。
いつも通りの毎日が続く。
だが、以前のような「ただ時間を消費している感覚」は、ほんの少しだけ薄れていた。
(……ちゃんとやったしな)
そう思えるだけで、気持ちに余裕ができる。
ある日の昼休み。
スマホが震える。
見慣れない番号。
一瞬、躊躇する。
(……まさか)
恐る恐る通話ボタンを押す。
「もしもし、〇〇株式会社の採用担当です」
その一言で、背筋が伸びる。
「あ、はい……」
自分でも分かるくらい声がぎこちない。
「先日ご応募いただいた件で、面接のご案内をさせていただきたくて」
一瞬、言葉が出なかった。
「……え?」
思わず聞き返す。
「ご都合の良い日時をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
現実だと理解するまでに、少し時間がかかった。
前回の面接とは違う。
今回は、「来てください」と言われている。
「……はい、大丈夫です」
少しだけ声が強くなる。
通話を終えたあと、テツヤはしばらくその場に立ち尽くした。
(……来た)
たったそれだけのことなのに、胸の奥が少し熱くなる。
工場の騒音の中で、一人だけ違う空気を感じていた。
その日の夜。
テツヤは部屋でノートを広げていた。
前回とは明らかに違う。
「志望動機」
「自分ができること」
「なぜこの会社か」
考える。
書く。
また消す。
時間がかかる。
でも、今回は逃げない。
分からないなりに、言葉を探す。
(……これでいいのか?)
何度も自問する。
それでも、前よりは確実に「自分の言葉」になっていた。
面接当日。
同じようにスーツを着る。
同じように緊張する。
でも、一つだけ違う。
「何も考えていない状態」ではない。
会議室に通され、面接が始まる。
「志望動機を教えてください」
前回と同じ質問。
一瞬、心臓が跳ねる。
だが、今回は違う。
テツヤはゆっくりと口を開く。
「……はい」
完璧ではない。
途中で少し詰まる。
それでも、言葉は出てくる。
「自分なりに考えたこと」を、そのまま話す。
面接官の反応は分からない。
でも、少なくとも前回のような「空白」はなかった。
面接が終わり、外に出る。
空気が軽く感じる。
「……やったな」
小さくつぶやく。
結果はまだ出ていない。
受かるかどうかも分からない。
それでも、確実に言えることがあった。
(ちゃんとやれた)
それだけで十分だった。
帰り道、街の景色が少しだけ違って見える。
何も変わっていないはずなのに、なぜか少し明るい。
アパートに戻り、ベッドに座る。
スマホを手に取るが、特にすることはない。
それでも、心は落ち着いていた。
以前のような「どうせ無理だ」という感覚は、少しだけ薄れている。
代わりに残っているのは、
「やれば、少しは変わるかもしれない」
という、ほんの小さな手応えだった。
「……まあ、悪くないか」
自然と笑みがこぼれる。
成功したわけではない。
何かを手に入れたわけでもない。
それでも――
「やってみたら、少し前に進めた」
その実感は、今までのどんな言葉よりも、テツヤの中に残った。
夜は静かに更けていく。
明日もまた、同じ生活が続く。
それでも、テツヤは思う。
(……次も、やるか)
その言葉は、もう「なんとなく」ではなかった。


