【サラリーマン奮闘記】第1話「耐え忍びのタケルくん ~その小さな反抗~」

オリジナルマンガ

中堅社員のタケルは、職場でも評判の真面目な男だった。頼まれごとを断れない性格で、後輩の面倒もよく見るため、周囲からは「いい人」と言われている。しかし、その“いい人”という評価こそが、彼を苦しめる原因にもなっていた。

というのも、彼の上司である斎藤課長が、典型的な“理不尽上司”だったからだ。
斎藤課長はことあるごとに「俺の若い頃はな……」と説教を始め、部下の小さなミスでも延々と持論を語り続ける癖がある。さらに、仕事の失敗は部下の責任、自分の雑務は部下の仕事という、見事なまでの責任転嫁体質だった。

その日も事件は突然起きた。
後輩のショウがコピー機で資料を印刷する際、サイズ設定を間違えてしまったのだ。紙はA4のはずがA3で印刷され、資料はすべて作り直しになってしまった。

そこへ現れたのが斎藤課長。
当然ショウが怒られるのかと思いきや、なぜか矛先はタケルへ向いた。

「ショウのミスはお前の指導不足だ!」

課長は机を叩きながら説教を始める。
タケルは「すみません……」と頭を下げるしかない。

さらに課長は続けた。

「ついでに俺の経費精算も入力しておけ。IDとパスはいつも通りだ」

完全に私用の雑務の押し付けだった。

これまでもタケルは同じようなことを何度も頼まれてきた。
そして、波風を立てないために、黙って処理してきた。

しかしその時、偶然通りがかった総務のミユキが二人のやり取りを見ていた。

ミユキは呆れたように言う。

「サンドバッグになってる暇あったら仕事しなよ」

その言葉が、タケルの胸に突き刺さる。

(このままでいいのか……?)

タケルは深く息を吸った。
そして、震える声で言った。

「課長……」

「他人のIDでの代行入力は、セキュリティ規定およびコンプライアンス違反になります」

会議室が静まり返る。

タケルは続けた。

「ですので……お断りします」

まさかの“ド正論”。
予想外の言葉に、斎藤課長は一瞬言葉を失った。

「……な、なんだと?」

しかし規定違反と言われてしまえば、さすがに強く出ることはできない。

課長は舌打ちをしながら書類を持ち上げると、

「チッ……最近の若い奴は融通が利かん」

そう吐き捨てて部屋を出て行った。

嵐が去ったあと、タケルは椅子に座り込む。
胃がキリキリと痛む。

ポケットから胃薬を取り出し、水で流し込む。

それでも、どこか誇らしい気持ちがあった。

机の向こうでは、ショウがキラキラした目で言う。

「先輩、カッコよかったです!」

タケルは苦笑いしながら答える。

「……いや」

「ただルール守っただけだよ」

それは決して大きな革命ではなかった。
けれどタケルにとっては、確かに大きな一歩だった。

こうして彼は、人生で初めて“理不尽にNOを言えた日”を、静かに噛みしめるのだった。