【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第2話|再会と現実の距離

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

テツヤが「行く」と送った同窓会の日は、思っていたよりも早くやってきた。

当日の朝。
いつもと同じように目覚ましで起きるが、どこか落ち着かない。
工場のシフトは入れていない。代わりに、久しぶりに“予定”がある一日だった。

クローゼットを開ける。
といっても、大した服は入っていない。ヨレたTシャツと、少し色あせたシャツ。
スーツなんて持っていない。

「……こんなんで行くのかよ」

思わず苦笑する。

大学時代は、周りと同じだった。
でも今は違う。
その差が、服選び一つで突きつけられる。

結局、まだマシなシャツを選び、何度もシワを伸ばしてから家を出た。

会場は駅近くの居酒屋だった。
扉の前で一度立ち止まる。

(今さら帰るか……?)

一瞬だけそう思う。
だが、スマホに表示された「参加者:12名」の文字を見て、小さく息を吐いた。

「……行くって言ったしな」

覚悟を決めて扉を開ける。

中は思ったよりも賑やかだった。
笑い声と、グラスの音。
その中に、懐かしい顔がいくつもある。

「おー!テツヤ!」

誰かが気づいて声をかける。
自然と視線が集まる。

「久しぶり!」

ぎこちなく笑いながら席につく。

会話はすぐに始まる。
仕事の話、転職の話、海外赴任の話。

「今、年収どれくらい?」
「忙しいけどやりがいあるよ」
「来年にはマネージャーかな」

軽い調子で交わされる言葉の一つ一つが、どこか遠く感じる。

テツヤは適当に相槌を打ちながら、グラスの水を飲む。

(やっぱり、場違いだな……)

そう思ったとき、隣に座ってきたのはミサキだった。

「来たんだ」

柔らかく笑う。

「まあ……なんとなく」

目を合わせるのが少しだけ気まずい。

「仕事どう?」

何気ない質問。
でも、答えに詰まる。

「……まあ、ぼちぼち」

また曖昧な返事になる。

ミサキはそれ以上深く聞かなかった。
ただ、少しだけ間を置いて言った。

「無理して話さなくていいよ」

その一言に、少しだけ救われる。

場の盛り上がりとは別に、二人の間には静かな空気が流れる。

しばらくして、リョウも加わってきた。

「お、テツヤ。ちゃんと来たじゃん」

軽く肩を叩かれる。

「まあな」

リョウは相変わらず余裕のある雰囲気だった。
話している内容も、立場も、すべてが違う。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

むしろ、はっきりと「差」を感じるからこそ、どこか吹っ切れる部分もあった。

会が進むにつれて、テツヤは少しずつ口を開くようになる。
大した話はしていない。
でも、黙っているだけの自分ではなかった。

帰り道。
店を出たあと、自然と人はバラバラになる。

テツヤは一人で歩き出した。

夜の街は、来るときよりも少しだけ明るく見えた。

(……なんか、疲れたな)

正直な感想だった。

楽しかったわけでもない。
でも、後悔もしていない。

ふと、スマホが震える。

ミサキからのメッセージだった。

「今日は来てくれてありがとう」

短い一文。

テツヤは少し考えてから返信する。

「こちらこそ」

それだけ打って、送信する。

画面を閉じると、ふっと息が抜けた。

(結局、何も変わってないよな)

そう思いながらも、どこか違う感覚が残っていた。

あの場にいたことで、自分の位置がはっきり見えた。
逃げていたものを、ちゃんと見た気がした。

アパートに戻り、いつもの部屋に入る。

散らかったままの空間。
変わらない現実。

でも、テツヤはバッグを床に置いたあと、少しだけ考える。

(……このまま、でいいのか?)

初めて、自分に問いかけた気がした。

答えは出ない。
でも、考えること自体が、今までの自分とは違っていた。

ベッドに座り、天井を見上げる。

「……まあ、すぐには無理か」

そうつぶやく。

それでも、どこかで思っている。

このままじゃ終わりたくない、と。

何をするのかはまだ分からない。
でも、“何かをしないといけない”という感覚だけは、確かに残っていた。

静かな夜の中で、テツヤは目を閉じる。

明日もまた、工場とコンビニの一日が始まる。

それでも――

ほんの少しだけ、昨日とは違う自分がそこにいた。