【サラリーマン奮闘記】第23話「成果主義の罠」

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社内で「成果主義」が本格的に推進され始めた今期。
その象徴として導入されたのが、プロジェクトメンバーの働きを数値化する『AI貢献度分析システム』だった。

作業ログ、コードのコミット数、ドキュメント作成量、さらにはレビュー対応時間までを自動で集計し、「誰がどれだけ貢献したのか」を可視化する。
曖昧だった評価を排除し、“本当に働いた人間”が正当に報われる――そんな触れ込みの最新ツールである。

「ついに来たか……」

マサシは、画面に表示された分析項目を見つめながら小さく呟く。
その目には、わずかな期待と、そして諦めが混じっていた。

(……どうせ最後は、空気で決まるんだろうな……)

迎えたのは、大型案件「プロジェクト・エクリプス」の最終報告会。
役員がずらりと並ぶ重苦しい会議室の中央で、斎藤課長が堂々と立ち上がる。

「役員の皆様!」

いつもの大きな声。

「今回のプロジェクト成功は、私の緻密なマネジメントの賜物です!」

スクリーンには、整えられた資料と“それっぽい成果グラフ”。
その横で、課長はさらに続ける。

「寝る間を惜しんで現場を統括し、全体最適を追求しました!」

(……寝てたのは、現場じゃなくて会議中だろ……)

マサシは心の中で淡々とツッコミを入れる。

実際のところ、設計、実装、トラブル対応、すべてを回していたのはマサシ一人だった。
課長は進捗会議に顔を出し、曖昧な指示を出すだけ。
だが、その“存在感”だけで評価が上書きされていくのが、この会社の常だった。

「さすが課長ですね……」

周囲からも、いつもの忖度が飛ぶ。

(……また、同じか……)

その瞬間、マサシは静かにPCを開いた。

画面には、まだ誰も使っていない『AI貢献度分析システム』のレポート作成画面。

そこにはすでに、すべてのログが揃っていた。

・作業時間:マサシ 148時間
・実装コード数:マサシ 12,000行
・レビュー対応:マサシ 98%
・課長:会議参加ログのみ

「……明らかだな」

無表情のまま、マサシは操作を進める。

忖度なし。
加工なし。
ただ、事実だけをそのまま。

そして――

会議室の巨大スクリーンへの出力設定をONにする。

一瞬だけ、手が止まる。

(……いいのか?)

だが、次の瞬間には迷いは消えていた。

ターンッ!

エンターキーが押し込まれる。

――数秒後。

斎藤課長の背後のスクリーンが、突如赤くフラッシュする。

ざわめく会議室。

そして、表示される。

『AI判定:真の貢献者=マサシ
(作業時間・実装コード数・対応量で圧倒的)
課長=会議参加のみ』

静寂。

一拍遅れて、空気が凍る。

「……は?」

役員の一人が低く呟く。

「斎藤……これはどういうことだ」

鋭い視線が突き刺さる。

「い、いや!これはAIの誤判定で……!」

狼狽する課長。

「誤診です!データの解釈が間違っている!」

だが、別の役員が静かに言う。

「ログは改ざんできない」

「……データが、すべてだ」

その一言で、空気は決まった。

先ほどまで持ち上げていた同僚たちも、一斉に沈黙する。

誰も助けない。

いや、助けられない。

「な、なんでこんな空気読めない結果を出すんだぁぁ!!」

崩れ落ちる斎藤課長。

その姿を、マサシは静かに見つめていた。

(……AIの前では、“やったふり”は通用しない)

ポケットから胃薬を取り出し、水で流し込む。

ふと視線を上げると、役員たちがこちらを見ている。

その視線には、初めて“評価”というものが含まれていた。

だがマサシは、何も言わない。

ただ静かに、PCを閉じる。

こうしてまた一つ――

誰にも気づかれない形で、
しかし確実に現実を変えた“事実”が刻まれた。

それは、声を上げることなく勝ち取った――

小さくて、確かな勝利だった。