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【フリーター奮闘記】第28話『不労所得(壮大な皮算用)』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

【今回の見どころ】

今回のテーマは、「働かずに稼ぎたい」という誰もが一度は抱く夢です。

「寝ているだけで月収100万円。」

そんな魅力的すぎる広告を見た瞬間、マサシの”前向き変換スイッチ”が発動。

「これからは金を働かせる時代だ!」

と、バイトを辞めて不労所得だけで生きることを宣言します。

しかも今回もマサシらしく、情報を十分に調べる前に全力で突っ走るところが笑いどころ。

同僚から

「昨日は筋トレ、今日は投資家か?」

と冷静にツッコまれても、

「凡人には分からない領域だ。」

と聞く耳を持ちません。

そして登場するのが、

「全自動・爆益AIトレードアプリ」

という、いかにも怪しい夢のような商品。

未来の資産家生活を想像しながら眠りにつくマサシの姿は、希望に満ちあふれています。

しかし数日後。

画面に表示されたのは、

運用益 −98%

ロスカット完了

という、あまりにも現実的な結末。

特に、

「AIに利益を搾り取られたのは、お前のほうだったな。」

という同僚の一言は、本作最大のオチになっています。

最後は結局いつものレジへ戻り、

「……やっぱり働くしかないのか……」

とバーコードを読み取る「ピッ」という音が、現実へ引き戻される演出として印象的です。

「楽して稼ぎたい」という願望と、「結局は地道な努力が近道」という現実を、マサシらしい極端な行動で笑いに変えた一話になっています。

【本文】

バイトの休憩中、スマホ片手にSNSを眺めていたマサシは、ふと流れてきた広告に目を奪われる。

「寝ているだけで月収100万円! 働いたら負け。これからは不労所得の時代だ!」

その瞬間、マサシの中で何かが弾けた。

「……来たか」

得意の“前向き変換”がフル回転を始める。

「俺はこれまで、自分の時間を切り売りして小銭を稼ぐという、非効率極まりない生き方をしていた……。だが違う。本当の勝ち組は、金に働かせる側だ!」

休憩が終わるや否や、レジに立つ同僚に向かって堂々と宣言する。

「俺は決めた。このバイトは今月で辞める。これからはビジネスオーナーとして、不労所得だけで生きていく!」

あまりの急展開に、同僚はため息をつく。

「お前、昨日“筋トレ3日で人生変わる”って言ってたよな。で、今日は投資家か?」

しかしマサシは聞く耳を持たない。スマホを掲げ、得意げに言い放つ。

「これだ! 全自動・爆益AIトレードアプリ! 少額の元本を入れるだけで、AIが24時間世界中の市場から利益を稼ぎ続ける。俺は寝て待つだけ!」

同僚は即答する。

「詐欺だろ」

だがマサシは鼻で笑う。

「凡人には分からない領域だな」

そしてその日のうちに、貯めていたバイト代をほぼ全額アプリに入金。

「これで俺も“資産家”か……」

その夜、ベッドに寝転びながらニヤニヤと未来を思い描く。

高級マンション、自由な生活、バイト先に颯爽と現れる自分――。

「明日には、このレジが“思い出の場所”になるな……」

【数日後】

マサシの様子は一変していた。

バイト中にもかかわらず、1分おきにスマホを確認。レジ操作もどこかぎこちなく、顔色は明らかに悪い。

「お前、大丈夫か?」

同僚の問いにも、生返事しか返せない。

そこへ常連客の斎藤課長が来店。

「お、マサシ君。最近元気ないな?」

しかしマサシは反応しない。ただスマホを凝視し、指先が震えている。

異様な空気を感じた同僚が、そっと画面を覗き込む。

そこに表示されていたのは、急降下する真っ赤なグラフと、無慈悲な数字。

――本日の運用益:-98%
――ロスカット完了

一瞬、店内の空気が止まる。

「……あーあ」

同僚が静かに言う。

「AIに利益を搾り取られたのは、お前のほうだったな」

マサシの手からスマホが滑り落ちる。

膝が崩れ、その場にしゃがみ込む。

「働いたら負け……働いたら負け……」

壊れたように同じ言葉を繰り返すマサシ。

だがその現実は、あまりにも皮肉だった。

結局、翌日も彼は同じ場所に立っていた。

同じレジ、同じ制服、同じ時給。

ただ一つ違うのは――

口座残高だけが、ほぼゼロになっていたことだった。

「……やっぱり、働くしかないのか……」

小さくつぶやきながら、マサシはバーコードをスキャンする。

ピッ、という音が、妙に現実的に響いていた。

【作者コメント】

「不労所得」という言葉には、不思議な魅力があります。

投資や資産運用そのものは決して悪いものではありませんし、長期的な資産形成はとても大切だと思います。

ただ一方で、

「絶対に儲かる」

「AIが全部やってくれる」

「寝ているだけでお金が増える」

そんな甘い言葉には、つい心が動いてしまうものです。

今回のマサシは、その”楽して成功したい気持ち”を極端に表現したキャラクターです。

努力を避けようとして飛びついた近道が、結果的には一番大きな遠回りになってしまいました。

現実には、投資も知識やリスク管理がとても重要で、「簡単に大儲けできる方法」はほとんど存在しません。

だからこそ最後は、同じレジに立ちながら

「やっぱり働くしかないのか……」

とつぶやくマサシの姿に、少しだけ現実味を持たせました。

もしこの作品を読んで、

「こんな広告、見たことある!」

「ちょっとだけ信じそうになったことがある……」

そんなふうに笑っていただけたら、とても嬉しいです。