【フリーター奮闘記】第22話『ウェルビーイング(精神的な充足)』

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ある日、財布の中を確認したマサシは静かに頷いた。

残金――ゼロ。

数日前、FIREを目指して給料のすべてを宝くじに投資した結果、手元に残ったのは当選金300円だけだった。

普通の人間なら絶望する状況。

しかしマサシは違った。

彼はゆっくりと立ち上がり、力強く宣言する。

「真の成功とは、銀行の残高ではない」

「心の平穏だ」

「俺は今日から――」

「ウェルビーイングを追求する」

そう言いながら、空っぽの財布をポケットにしまう。

つまりこれは貧乏ではない。

精神的ラグジュアリーへの転換なのだ。

その日から、マサシの“精神的豊かさアピール生活”が始まった。

昼下がりの公園。

マサシはベンチに座り、水道水をゆっくりと飲む。

近くにはタンポポが一輪咲いている。

マサシはそれをじっと見つめながら呟く。

「この生命の躍動……」

「物質主義に毒された人間には見えない美しさだ」

そしてスマホを取り出し、SNSに投稿する。

『今、ここにある奇跡。
タンポポの呼吸が、俺の魂と共鳴する。』
#ウェルビーイング
#マインドフルネス
#執着からの解放

投稿を終え、満足そうにうなずくマサシ。

「やはり精神的豊かさが一番だ」

数日後。

季節は真冬。

マサシの部屋は極寒だった。

電気代を節約するため、暖房は完全停止。

マサシは薄い毛布にくるまりながら、床に座っていた。

ガタガタ……

歯が鳴る。

しかし彼は目を閉じ、静かに座禅を組む。

「寒さもまた……宇宙のメッセージ」

そのとき。

ポストに一通の封筒が届く。

差出人――

不動産管理会社。

封筒を開ける。

中には一枚の紙。

「家賃滞納のご案内(督促状)」

マサシの手が止まる。

数秒の沈黙。

しかし次の瞬間、彼は静かに頷いた。

「……これはピンチじゃない」

「宇宙が俺に与えた試練だ」

「執着から解放されるための最終テスト」

そう言うと、マサシは督促状をシュレッダーに入れる。

バリバリバリ。

紙は細かく裁断された。

完全なる現実逃避である。

そのとき。

グゥゥゥ……

空腹で胃が鳴った。

マサシはゆっくり目を閉じる。

「この音……」

「宇宙との共鳴だ」

「俺は今、完全にシンクロしている」

そして再び座禅を組みながら、小さくつぶやいた。

「……ウェルビーイング、最高だな」