【フリーター奮闘記】第1話『俺はまだ本気出してない』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

深夜二時。
静まり返った街の片隅で、コンビニの蛍光灯だけが白く光っている。

レジカウンターの内側に立つのは、フリーターのマサシ(24)。
眠気をこらえながら、機械的にバーコードを読み取っている。

ピッ。
ピッ。
ピッ。

単調な電子音が、夜の静けさに溶けていく。

しかしマサシの頭の中では、別の声が響いていた。

「今は社会観察期間……」
「この経験は将来、絶対役に立つ……」

彼は自分に言い聞かせるようにそう考える。
これは遠回りではない。
成功するための準備期間なのだ、と。

だが、現実のコンビニは理想の社会観察とは程遠かった。

酔っぱらった常連客がレジ前で絡んでくる。

「兄ちゃん、夢とかあるのかい?」

酒臭い息を吐きながら肩を叩かれ、マサシは愛想笑いを浮かべるしかない。

その数分後には、年下の新人アルバイトがレジにやってくる。

「マサシさん、この商品ってこう処理で合ってますか?」

敬語で話しかけられるその状況が、地味に胸に刺さる。

さらに追い打ちをかけるように、弁当を買った客が怒鳴り込んでくる。

「冷たいぞこれ!温めてないじゃないか!」

完全にマサシのミスだった。

「申し訳ありません……」

頭を下げながら、心のどこかが少しずつ削れていく。

気がつけば外は薄明るくなり、長い夜勤も終わりを迎えていた。

店を出たマサシは、ふらつく足で帰り道を歩く。

体は重く、頭もぼんやりしている。

しかし、ふと空を見上げた瞬間――

朝焼けが広がっていた。

オレンジ色に染まる空と、静かな街並み。

その景色を見たとき、なぜかマサシの胸の奥に小さな感情が芽生える。

「……今日も社会を生き抜いた。」

自分を励ますように、ぽつりとつぶやく。

少しだけ前向きな気持ちになりながら、マサシはアパートへと帰る。

しかし――

部屋に入ってスマホを確認した瞬間、その気持ちは一瞬で吹き飛んだ。

画面に表示されていたのは通知。

【重要】
家賃引き落とし不能のお知らせ(残高不足)

マサシはしばらくその画面を見つめ続ける。

そして静かに、心の中でつぶやく。

「……俺は、まだ本気出してないだけだ。」

その言葉だけが、静かな部屋の中に虚しく響いていた。