オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第11話
以前、斎藤課長から「ちょっと俺の代わりにシステム入力しておいてくれ」と頼まれた際、「他人のIDでの代行入力は禁止されています」と冷静に断り、見事に論破してみせたタケル。あの時は理不尽な指示を撃退したかに見えた。
しかし、斎藤課長はそう簡単に諦める男ではなかった。
「勤務時間中に雑用を頼めないなら……」
「時間外に頼めばいい」
そんな斜め上の結論にたどり着いてしまったのだ。
その週末から、タケルのスマホは静かな地獄へと変わる。
金曜の夜。
ピコン。
『例の企画書、月曜までに軽く案出しといて』
土曜の昼。
ピコン。
『このデータ、ちょっと見といてくれ』
日曜の夜。
ピコン。
『思いついたんだけど、この資料の方向性変えた方がいいかも』
そして最後には必ずこう付け加えられる。
『俺の若い頃はな、24時間仕事のことを考えていたもんだ』
そのメッセージを見るたび、タケルの胃はキリキリと痛む。
せっかくの休日なのに、スマホの通知が鳴るたびに仕事のことを考えさせられてしまうのだ。
後輩のショウは笑いながら言う。
「通知オフにすればいいじゃないですか」
しかしタケルは首を振る。
「……それができれば苦労しないよ」
真面目な性格のタケルは、つい内容を確認してしまうのだった。
そして月曜日の朝。
寝不足のまま出社したタケルは、いつものように胃薬を取り出して水で流し込む。
そのとき、総務のミユキが掲示板に新しいポスターを貼っているのが目に入った。
『新・勤怠管理システム導入のお知らせ』
タケルはぼんやりとその内容を読む。
すると、ある一文に目が止まった。
「時間外の業務連絡への対応も、労働時間として1分単位で申請すること」
タケルの頭の中で、何かが光った。
(……これだ)
その瞬間、タケルの表情が少しだけ変わる。
タケルはPCの前に座り、週末のLINE履歴を開く。
そして一つずつスクリーンショットを保存する。
金曜22時
『企画書案の確認』
土曜14時
『データ確認指示』
日曜21時
『資料方向性変更』
すべての証拠を添付し、勤怠システムに入力していく。
「金曜22時:業務指示対応(15分)」
「土曜14時:データ確認指示対応(30分)」
「日曜21時:資料指示対応(20分)」
最後に申請ボタンを押す。
ターン!
その数時間後。
フロアに総務のミユキの冷たい声が響いた。
「斎藤課長」
「部下への事前許可なき休日業務指示は、労務規定違反です」
「さらに今月の残業代予算を大幅に超過しています」
「部長宛ての顛末書の提出をお願いします」
斎藤課長の顔が一瞬で青くなる。
「て、顛末書ぉ!?」
「ちょっとLINEしただけじゃないか!」
しかしミユキは冷静だった。
「休日に仕事の連絡をするということは、そういうことです」
完全な正論である。
その後、涙目で顛末書を書き始める斎藤課長。
その背中を見ながら、タケルは静かに胃薬を飲む。
胃の痛みはまだ残っている。
だが、週末の労働時間はすべて正当な残業代として計上された。
タケルは小さく息をつく。
そして心の中でつぶやく。
(……小さな勝利、ですね)
スマホの通知音が鳴らない、静かな月曜日だった。


