【サラリーマン奮闘記】第8話「生成AIと、危険な丸投げ」

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月曜の朝、オフィスに響き渡ったのは斎藤課長の自信満々の宣言だった。どうやら昨夜、ニュースかネット記事で「AI革命」の特集を見たらしい。最新トレンドに目がない課長は、すっかりAIの虜になっていた。

「お前たちももっとAIを活用したまえ!」

タケルとショウに向かって胸を張る斎藤。

「AIを使えば企画書なんて5分で終わる!」

そのドヤ顔に、ショウは小さく呟く。

「……また始まった」

実は翌日、会社にとって重要なクライアントであるA社向けのプレゼンが予定されていた。通常なら数日かけて準備する資料だが、斎藤はパソコンの前に座り、AIチャットを開く。

そして入力した指示は、たった一行。

「A社向けの儲かる企画書、いい感じでよろしく」

あまりにも曖昧すぎるプロンプトだった。

数秒後、AIが返したのは当然ながら一般的な質問だった。

「A社とはどのような企業ですか?」
「具体的な目標や条件を教えてください」

しかし、それを見た斎藤は不機嫌そうに眉をひそめる。

「なんだこのAIは!」

「気が利かん!」

そして、信じられない行動に出る。

「なら、うちの会社のデータを全部読み込ませてやる!」

そう言って社内フォルダを開き、
未発表の新製品データ、
クライアントの個人情報リスト、
さらには極秘の財務データまで、
無料の外部AIチャットにドラッグ&ドロップし始めたのだ。

その瞬間。

タケルの顔から血の気が引いた。

「課長、ストーーップ!!」

オフィス中に響く声。

「未承認の外部AIサービスに社内の機密情報や個人情報を入力するのは、当社の情報セキュリティガイドライン違反です!」

「即座に情報漏洩と見なされます!」

“情報漏洩”という言葉に、斎藤の指が止まる。
エンターキーを押す寸前だった。

そこへ、さらに追い打ちがかかる。

背後から静かな声が響いた。

「課長」

振り向くと、総務のミユキが立っていた。

手には分厚い冊子。

「コンプライアンス規定」

ミユキは冷静に言う。

「セキュリティ監査のため、端末を一時没収します」

斎藤の顔が青ざめる。

「え、ちょ、ちょっと待て」

しかしミユキは容赦しない。

パソコンを静かに持ち上げると、そのまま去っていった。

残された斎藤は、完全に戦力を失う。

「……どうするんだ」

「明日の企画書……」

タケルはそっと机の上に紙を置く。

「……紙とペンならあります」

数時間後。

斎藤は机に向かい、半泣きで手書きの企画書を書いていた。

その姿を横目に、タケルは静かに胃薬を取り出す。

会社を揺るがすかもしれない大惨事を、また一つ未然に防いだのだ。

キリキリと痛む胃をさすりながら、タケルは思う。

(……今日も、小さな勝利ですね)

こうしてオフィスの平和は、またしてもギリギリのところで守られたのだった。