オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第23話
「副業やってると、変な勧誘も来るから気をつけろよ」
以前、佐藤が何気なく言っていた言葉を、テツヤは今になって思い出していた。
部屋の机。
スマホ画面には、新しいメッセージが表示されている。
「今の段階なら、まだ少人数だけです」
「ここで動ける人だけが変われます」
最初は、ただの通知だった。
副業用に登録したコミュニティ。
そこから届いたDM。
最初は軽い内容だった。
「副業頑張ってますね」
「継続できる人は強いです」
そんな言葉。
だが、やり取りを続けるうちに、少しずつ内容が変わっていった。
「もっと条件の良い案件があります」
「将来的には月収数十万円以上も可能です」
「今始めた人が有利です」
そして今――
「説明会参加後、簡単な初期登録が必要になります」
「費用は数万円程度ですが、すぐ回収可能です」
そこまで読んだ瞬間、テツヤの指が止まる。
(……初期費用)
胸の奥がざわつく。
払えない額じゃない。
でも、どこか引っかかる。
机の上にはノート。
そこには、今まで積み上げてきた言葉が並んでいた。
「続ける」
「積み上げる」
「変わりたい」
その全部が、今の自分を支えていた。
だからこそ――
「ここで踏み込めば変われるかもしれない」
そんな気持ちが消えない。
工場。
昼休み。
弁当を食べながらも、頭の中はそのことでいっぱいだった。
「月収数十万円」
その言葉が何度も頭をよぎる。
もちろん怪しい。
そんなことは分かっている。
でも同時に、別の感情もある。
(もし本当だったら)
今の生活。
工場。
コンビニ。
小さな副業。
少しずつ前には進んでいる。
でも、本音を言えば――
もっと変わりたい。
その気持ちを、この話は強く刺激してくる。
夜。
コンビニ勤務。
レジを打ちながらも集中できない。
客の声が一瞬遠くなる。
「あ、すみません」
慌てて対応する。
(……ダメだ)
自分でも分かる。
完全に飲み込まれ始めていた。
休憩時間。
テツヤはスマホを取り出す。
説明会の案内画面。
参加ボタン。
指が止まる。
“今だけ”。
“少人数限定”。
その言葉が、焦りを加速させる。
(ここで動かなかったら)
また、何も変わらないんじゃないか。
そんな気持ちが膨らんでいく。
その時だった。
「……まだ見てたのか」
声。
振り返ると、佐藤が立っていた。
テツヤは少し迷いながらスマホを見せる。
佐藤は画面を見る。
数秒。
そして、ゆっくり息を吐いた。
「……あー、これか」
その反応に、テツヤは少し驚く。
「知ってるんですか?」
佐藤は椅子に座りながら言う。
「副業コミュニティ入ると、こういうDM結構来るんだよ」
空気が少し変わる。
「え……?」
「実績出始めたやつとか、“もっと稼ぎたい”って空気出してるやつ、狙われやすい」
その言葉に、胸がざわつく。
(……狙われる?)
佐藤はスマホ画面を指差す。
「仕事内容、ちゃんと分かる?」
テツヤは黙る。
確かに、曖昧だった。
「市場」
「仕組み」
「継続報酬」
そんな言葉ばかり。
なのに、“稼げる”だけは強調される。
佐藤は続ける。
「あと、“今だけ”“限定”“本気の人だけ”って言葉、多すぎ」
「で、最後に金取る流れ」
その瞬間。
テツヤの背中が冷える。
頭のどこかでは、ずっと感じていた。
でも、“信じたい気持ち”がそれを押し込めていた。
「頑張ってる時ほど、こういうの引っかかりやすいんだよ」
佐藤は静かに言う。
「“変わりたい”って気持ち強くなるから」
その言葉が痛いほど刺さる。
テツヤはうつむく。
悔しかった。
情けなかった。
でも同時に――
少し怖かった。
もし、このまま一人で進んでいたら。
そう思うと、背中が冷える。
帰宅後。
机に座る。
スマホを見る。
説明会の案内。
参加ボタン。
テツヤは、ゆっくり画面を閉じる。
ノートを開く。
しばらく考える。
そして、ゆっくり書く。
「焦ってた」
さらに続ける。
「変わりたくて、見えなくなってた」
ペンが止まる。
長く息を吐く。
窓の外。
静かな夜景。
危うく、自分を見失うところだった。

