【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第11話|最後に問われるもの

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最終面接の日が近づくにつれて、テツヤの中の空気は明らかに変わっていた。

これまで感じてきた緊張とは、どこか違う。

重い。
逃げ場がない。

(……ここで決まるのか)

そう思うと、自然と背筋が伸びる。

一次、二次と進んできた。
それだけでも十分に大きな変化だった。

だが今回は違う。

“選ばれるかどうか”が、はっきりと問われる場。

それが最終面接だった。

工場での作業中も、コンビニの夜勤中も、頭の中では何度もシミュレーションを繰り返す。

(何を聞かれる)
(どう答える)
(自分は何を伝えたい)

考えて、迷って、また考える。

ノートにはびっしりと文字が並んでいた。

これまでの振り返り。
自分の弱さ。
それでも変わろうとした理由。

どれも綺麗な言葉ではない。
でも、確実に「自分の言葉」だった。

ある夜。

部屋でノートを見返していると、ふと手が止まる。

(……これでいいのか?)

完璧ではない。
むしろ、不安の方が大きい。

だが同時に、ある感覚もあった。

(……これ以上は、作れないな)

取り繕うことはできる。
もっと“それっぽい答え”も作れる。

でも、それでは意味がない気がした。

ここまで来たのは、「自分で考えてきたから」だ。

なら――

(最後も、それでいくか)

小さく息を吐く。

覚悟に近い感情だった。

面接当日。

スーツに袖を通す手は、これまでで一番落ち着いていた。

緊張がないわけではない。
むしろ、強い。

それでも、不思議と逃げたいとは思わなかった。

玄関の鏡の前に立つ。

少しだけ疲れた顔。
でも、その奥にある目は、以前とは明らかに違っていた。

「……行くか」

静かに言い、ドアを開ける。

会場に着く。

受付を済ませ、待合室へ。

静かな空間。
時計の音だけがやけに響く。

(……ここまで来たな)

ふと、これまでのことが頭をよぎる。

何も考えていなかった日々。
副業で失敗したこと。
面接で何も言えなかった自分。

そこから、ここまで来た。

それだけで、少しだけ自信になった。

名前を呼ばれる。

立ち上がる。

ドアの前に立つ。

(……逃げるなよ)

心の中で、いつもの言葉をつぶやく。

ノックをする。

「どうぞ」

扉を開ける。

最終面接が始まる。

部屋の空気は、これまでとは違っていた。

面接官は二人。
静かで、無駄のない視線。

「よろしくお願いします」

挨拶をして、席に座る。

すぐに質問が始まる。

「これまでの選考を通して、当社を志望する理由は何ですか?」

準備してきた質問。

だが、最終面接では“深さ”が問われる。

テツヤは一瞬だけ間を置く。

(……そのまま話す)

ゆっくりと口を開く。

考えてきたこと。
感じたこと。

取り繕わず、そのまま言葉にする。

途中で詰まる。
言い直す。

それでも、止まらない。

次の質問。

「あなたを採用するメリットは何ですか?」

強い質問だった。

一瞬、言葉に詰まる。

(……メリットか)

これまでの自分には、胸を張って言えるものはなかった。

でも――

(今の自分なら)

小さく息を吸う。

「……正直に言うと、特別なスキルはありません」

はっきりと言う。

面接官の表情がわずかに動く。

「ですが、ここまでの選考で、自分なりに考えて行動してきました」

言葉を続ける。

「逃げずに続けてきたことは、これからも続けられると思っています」

静かな声。

でも、それは自分の中から出てきた言葉だった。

沈黙が流れる。

短いはずなのに、長く感じる。

やがて、面接官の一人が小さく頷く。

その反応の意味は分からない。

それでも、テツヤの中には一つの感覚があった。

(……出し切った)

面接が終わる。

「本日はありがとうございました」

頭を下げる。

ドアを出る。

廊下に出た瞬間、全身の力が抜ける。

「……はぁ」

深く息を吐く。

結果は分からない。

受かるかもしれないし、落ちるかもしれない。

でも――

(もういいか)

そう思えた。

ここまで来て、初めてだった。

「結果よりも、やったこと」が残っている。

それが、何より大きかった。

外に出る。

空は少し曇っていた。

でも、どこか明るく感じる。

「……悪くないな」

小さくつぶやく。

テツヤはゆっくりと歩き出す。

答えはまだ出ていない。

それでも、確実に言えることが一つあった。

もう、あの頃の自分ではない。