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【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第4話|楽な道の誘惑

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

【前回のあらすじ】

「変わりたい」という思いから転職活動を始めたテツヤ。しかし、十分な準備もないまま臨んだ面接では、自分が何をしたいのか答えることすらできず、不採用という結果に終わってしまう。

落ち込みながらも、「やって失敗した」という経験は、何もしなかった頃の自分とは違う一歩だった。テツヤは、自分に足りなかったものと向き合い、「考えることから逃げない」と決意する。

しかし、その決意はまだ揺らぎやすく、本当の意味で前へ進むには、もう一つの試練が待っていた。

【今回の見どころ】

今回のテーマは「楽な道の誘惑」です。

努力せずに人生を変えられる――そんな甘い言葉に、テツヤの心は揺れ動きます。誰もが一度は惹かれてしまう”近道”の誘惑。しかし、その先に待っていたのは後悔だけでした。この失敗が、テツヤに本当の意味で「努力すること」の大切さを教えてくれます。

【本文】

不採用の通知を受け取ってから、数日が経っていた。

あの時の「もう一回やるか」という気持ちは、まだ消えてはいない。

でも、強くなっているわけでもなかった。

工場での単純作業。

コンビニでの夜勤。

いつも通りの生活に戻ると、不思議とあの悔しさも少しずつ薄れていく。

(……まあ、仕方ないか)

そうやって、自分を納得させようとしていた。

そんなある日の夜。

コンビニの休憩中にスマホを見ていると、広告が目に入る。

「スマホ一つで月収30万!」

「誰でも簡単!副業で人生逆転!」

思わず指が止まる。

(……ほんとかよ)

怪しい。

どう見ても怪しい。

でも同時に、どこか惹かれている自分もいた。

努力しなくてもいい。

特別なスキルもいらない。

今の生活のまま、収入だけ増える。

そんな都合のいい話、あるわけがない。

頭では分かっている。

それでも、画面を閉じることができなかった。

「……ちょっと見るだけ」

自分に言い訳をして、リンクを開く。

動画、成功者の声、豪華な生活。

見れば見るほど、現実感はないのに、なぜか引き込まれていく。

(これで本当に稼げるなら……)

頭の中に、少しだけ未来のイメージが浮かぶ。

工場も辞められる。

コンビニも辞められる。

あの同窓会で感じた“差”も、一気に埋められる。

「……ありかもしれないな」

その時点で、もう半分は決まっていた。

数日後。

テツヤは少額の初期費用を支払っていた。

「投資」なのか「情報商材」なのか、よく分からないまま。

(まあ、このくらいなら……)

そう思った。

大きな額ではない。

失っても致命傷ではない。

だからこそ、踏み込んでしまった。

最初の数日は、それなりに楽しかった。

指示通りにスマホを操作し、簡単な作業をこなす。

「これでいいのか?」と思いながらも、何かをやっている感覚があった。

だが、一週間も経つと違和感が強くなる。

「追加のプランでさらに稼げます」

「ここからが本番です」

次々に出てくる“次のステップ”。

(……あれ?)

気づく。

これは終わらないやつだ、と。

それでも、ここまでやった以上、やめるのも悔しい。

少しだけでも取り返したい。

そんな気持ちが、さらに深みに引き込む。

気づけば、テツヤはまたお金を払っていた。

数日後。

結果は、何も変わらなかった。

むしろ、残ったのは「減った残高」と、言い訳できない後悔だけだった。

部屋の中で、スマホを見つめる。

何度も画面をスクロールするが、状況は変わらない。

「……何やってんだ、俺」

ぽつりとこぼれる。

分かっていたはずだった。

怪しいと、最初から思っていた。

それでも手を出した。

楽な道に逃げたかったから。

努力せずに変わりたかったから。

ベッドに倒れ込み、天井を見る。

「……ダサすぎるだろ」

前回の面接の時とは違う種類の自己嫌悪だった。

あの時は「できなかった悔しさ」。

今回は「分かっていて逃げた自分」。

しばらく動けなかった。

時間だけが過ぎていく。

やがて、テツヤはゆっくりと起き上がる。

スマホを手に取り、例のサイトを開く。

一瞬、迷う。

(……どうする)

続けるか、やめるか。

少し考えてから、アプリを削除した。

それだけの行動なのに、妙に疲れる。

「……終わり」

小さくつぶやく。

何も得られなかった。

むしろ失った。

でも、一つだけ分かったことがある。

「楽に変わる方法なんて、ない」

当たり前のことだった。

でも、それを“実感”したのは初めてだった。

部屋の中は相変わらず散らかっている。

生活も変わっていない。

それでも、テツヤは少しだけ前を向く。

(……ちゃんとやるしかないか)

その言葉には、前よりも少しだけ重みがあった。

失敗した。

しかも、かなり情けない失敗だった。

でも、その分だけ、次に進む理由がはっきりした。

テツヤはスマホを置き、深く息を吐く。

明日もまた、工場とコンビニの一日が始まる。

それでも――

もう「楽な道」に逃げることだけは、やめようと思った。

【作者コメント】

第4話で描きたかったのは、「人は弱いからこそ、近道を選びたくなる」という現実です。

テツヤは怠け者ではありません。むしろ、毎日必死に働いています。だからこそ、「少しでも楽に変われる方法があるなら」と心が揺れてしまいました。

しかし、この経験によって彼は、大切なことを身をもって学びます。それは、「本当に自分を変える方法に近道はない」ということです。

この失敗は、お金を失っただけではありません。自分の弱さと向き合う経験でもありました。そして、その経験があるからこそ、次に出会う佐藤の言葉や、本当の努力の意味を素直に受け止められるようになります。

遠回りに見える失敗も、後から振り返れば成長への大切な一歩です。この出来事が、テツヤの人生を大きく変えていく最初の転機になっていきます。