オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第1話
テツヤは「忙しい」という言葉に、どこか救われていた。
昼は工場、夜はコンビニ。
ダブルワークで一日が埋まっているから、将来のことを考えなくて済む。
考える時間がないことを、どこかで言い訳にしていた。
本当は分かっている。
このままでは何も変わらないことくらい。
それでも、立ち止まる勇気も、踏み出す勇気もなかった。
ある日の昼休み。
工場の休憩室でスマホを見ていると、大学のグループチャットが久しぶりに動いていた。
「今度、軽く集まらない?」
誰かがそう書き込んでいる。
懐かしい名前が並ぶ中に、ミサキの名前もあった。
テツヤの指が止まる。
(……どうする)
既読をつけるだけで、何も返信できない。
今の自分を、あの頃の仲間に見せることに、妙な抵抗があった。
「久しぶりに会いたいね!」
ミサキのメッセージが流れる。
その一言が、やけに刺さった。
その日の夜、コンビニのバイト中。
レジの前に立っていると、不意にドアが開く。
入ってきたのは、スーツ姿の女性。
「……あれ?」
思わず声が出る。
振り返ったその顔は、ミサキだった。
「え、テツヤ!?」
お互いに驚く。
数秒の沈黙のあと、どちらともなく笑った。
「こんなとこで会うとは思わなかった」
ミサキは自然にそう言う。
テツヤは少しだけ視線を逸らした。
「……まあ、ここで働いてるから」
言葉が短くなる。
見栄を張る余裕すらなかった。
会計を済ませたあと、ミサキは少しだけ店内に残った。
「このあと、少し話せる?」
断る理由は思いつかなかった。
バイト終わり、店の外で並んで歩く。
昔みたいな空気ではない。でも、嫌な感じでもなかった。
「グループのやつ、見た?」
「ああ……見た」
「来る?」
その一言に、また言葉が詰まる。
「……どうしよっかな」
曖昧に笑う。
ミサキは少し考えてから言った。
「無理して来なくてもいいけどさ」
「……うん」
「でも、テツヤってさ、昔から“そのうちやる”って言ってたよね」
ドキッとする。
「で、その“そのうち”って、来た?」
言葉が出なかった。
責められているわけじゃない。
ただ、事実を突きつけられているだけだ。
テツヤは苦笑した。
「……来てないな」
ミサキは小さく笑う。
「そっか。でもさ」
少しだけ真剣な顔になる。
「来ないんじゃなくて、自分で行こうとしてないだけじゃない?」
その言葉が、胸の奥に沈む。
帰り道、一人になったテツヤは歩きながら考える。
(行こうとしていないだけ……か)
今まで「忙しい」でごまかしてきたこと。
考えないようにしてきたこと。
全部、自分で選んできた結果だと気づく。
アパートに戻り、部屋の中を見渡す。
何も変わっていない。
昨日と同じ景色。
でも、少しだけ違って見えた。
テツヤはスマホを手に取る。
グループチャットを開く。
指が止まる。
(行ったら、何か変わるのか?)
分からない。
でも、行かなければ何も変わらないことだけは分かる。
深く息を吸って、打ち込む。
「久しぶり。俺も行くわ」
送信ボタンを押した瞬間、心臓が少し速くなる。
大した一歩じゃない。
人生が劇的に変わるわけでもない。
それでも、今まで止まっていた何かが、少しだけ動いた気がした。
翌朝。
いつもと同じように目が覚める。
同じ工場、同じコンビニ。
何も変わらない一日が始まる。
それでも、テツヤは思う。
(……まあ、ちょっとだけやってみるか)
その小さな変化が、どこに繋がるのかはまだ分からない。
ただ一つ確かなのは、
昨日までとはほんの少し違う自分がいるということだった。

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