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【フリーター奮闘記】第31話『ノマドワーカー(高価な場所代)』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

【今回の見どころ】

今回のテーマは、「環境を変えたことで満足してしまう人間心理」です。

「一流のクリエイターはカフェで仕事をする」

そんな記事を読んだマサシは、

「才能じゃない。環境が足りなかったんだ!」

と、いつものように大胆な結論へたどり着きます。

ノートPCを持ち、おしゃれなカフェへ向かい、窓際の特等席を確保。

そこまでは完璧です。

しかし、肝心の作業は始まりません。

「作業用BGMはこれじゃない」
「歌詞があると集中できない」
「もっと最適なプレイリストがあるはずだ」

と、気付けば何時間もBGM探しの旅へ。

さらに周囲の視線まで気になり始め、

英語のニュースサイトを開いて「仕事ができる人」を演出する姿は、思わず笑ってしまいます。

そして極めつけは、

「カフェ滞在3時間30分、タイピング14文字」

という冷酷すぎる活動記録。

場所は変わっても、やっていることはほとんど変わらない。

それでも、

「これは環境への投資だ」

と前向きに解釈し、次は”最強の作業カフェ”を探し始めるところまで含めて、マサシらしさ全開のオチになっています。

「作業する場所」を探すことが、「作業そのもの」になってしまう――そんな現代人ならではの”あるある”を、コミカルに描いた一話です。

【本文】

休日の午後。
自室の机に向かいながらも、まったく作業が進まないマサシは、いつものようにスマホで「生産性向上系の記事」を漁っていた。

すると目に飛び込んできたのは、いかにも“できる人間”が好みそうな言説。

「一流のクリエイターは、あえてカフェの雑音の中で集中力を高めている」

「環境を変えることで、脳のパフォーマンスは飛躍的に向上する」

その瞬間、マサシの中で例のスイッチが入る。

「……なるほど」

「今の俺に足りないのは“才能”じゃない。“環境”だ」

そう結論づけたマサシは、迷いなく立ち上がる。
ノートPC、ノイズキャンセリングイヤホン、そしてなぜか“できる男感”を演出するための無駄にスタイリッシュなバッグを手に、街で最もおしゃれなカフェへと向かった。

店内に入った瞬間、漂うコーヒーの香りと落ち着いたBGM。

(……勝ったな)

窓際の特等席を確保し、やたらと長い名前のグランデサイズ・カスタムフラペチーノを注文。
PCを開き、イヤホンを装着し、姿勢を正す。

「素晴らしい……」

「この環境、この空気……今の俺は“作業する側の人間”だ」

完全に自己演出モードに入るマサシ。

しかし、ここからが本番だった。

まず取りかかったのは――作業ではなく「BGM選び」。

「この曲はテンポが速すぎる……集中できない」

「いや、これは歌詞が邪魔だ……脳のリソースを奪う」

プレイリストをスクロールし続けること数十分。
やがて、“究極の作業用BGM”を求める旅は止まらなくなる。

さらに気になり始めるのは、周囲の視線。

(……今、あの人、俺のこと見たか?)

(“できるやつ”って思われてるな……)

誰も見ていないにも関わらず、無駄にキーボードを強く叩く。

ターンッ!

意味もなく英語のニュースサイトを開き、画面をスクロール。

(……よし、知的に見える)

完全に“作業している自分”を演じることに集中していた。

その間にも、甘すぎるフラペチーノは順調に消費されていく。

――数時間後。

急激な眠気が、マサシを襲う。

「……あれ……なんか……」

血糖値の乱高下による、抗えない眠気。

気づけば、腕を組んだまま、完全に意識を失っていた。

――トントン。

「お客様、そろそろお時間ですが……」

店員の声で目を覚ます。

外はすでに真っ暗。

時計を見ると、3時間以上が経過していた。

慌ててPC画面を見るマサシ。

そこに残されていたのは、無慈悲なログ。

――本日のカフェ滞在時間:3時間30分
――タイピング文字数:14文字
――BGM選曲時間:2時間15分

「……少なっ……」

思わず漏れる本音。

高い場所代、甘すぎるドリンク、そしてゼロに近い成果。

「……違う……これは投資だ」

「環境への投資は、未来の成果につながる……」

必死に言い訳を組み立てるマサシ。

だがその指は、すでにスマホを開いていた。

「……次は“最強の作業カフェ”を探すか」

こうしてマサシのノマド生活は――

成果を出すことなく、場所だけを変え続ける旅へと進化していくのだった。

【作者コメント】

最近は、ノマドワークやリモートワークが当たり前になり、「どこで仕事をするか」が話題になることも増えました。

私自身も、おしゃれなカフェへ行けば集中できそうな気がして、ノートPCを持って出かけたことがあります。

ところが実際には、

「席はどこにしよう」
「BGMが気になる」
「飲み物は何にしよう」

と、作業以外のことに意識が向いてしまい、思ったほど進まなかった経験があります。

今回のマサシは、その”環境を整えること”に全力を注ぐ人を少し極端に描いてみました。

本当に必要なのは、場所ではなく「手を動かすこと」。

それなのに、人は環境を変えただけで、自分まで変わったような気持ちになってしまいます。

だからこそ、最後の

「タイピング文字数:14文字」

という結果は、笑いながらも少し胸が痛くなる数字かもしれません。

もしこの作品を読んで、

「カフェに行っただけで満足していたかも」

「BGM選びに時間を使いすぎていたかも」

と感じた方がいたら、マサシとは良い仲間です(笑)。

そんな”生産性あるある”を、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。