【フリーター奮闘記】第20話『ノマドワーカー(場所にとらわれない生き方)』

フリーター奮闘記【マサシの物語編】

ある日の昼。
マサシはカフェの窓際に座り、ノートパソコンを開いていた。

カタカタカタ……

キーボードを叩きながら、コーヒーを一口すする。

その姿は、一見するとどこか仕事のできるクリエイターのようにも見える。

マサシは満足そうに小さく頷いた。

「固定されたオフィスは、思考を停滞させる」

「これからの時代はノマドワークだ」

彼の前にあるのは、型落ちの分厚いノートパソコン。
バッテリーはすでにかなり弱っており、電源が持つのはせいぜい10分程度。

しかしマサシは自信満々だった。

「街全体が、俺のワークスペースだ」

今日の仕事場は、都内のおしゃれなカフェ。

木のテーブル。
柔らかい照明。
静かなBGM。

いかにも「集中できそうな環境」だ。

マサシはレジで一番安いSサイズのコーヒーを注文し、コンセントのある4人掛けソファ席を確保した。

その席に一人で堂々と座る。

ノートパソコンを開き、真剣な顔でキーボードを叩く。

「環境を変えると、脳の“デフォルト・モード・ネットワーク”が活性化する」

マサシはそれらしい言葉を小さくつぶやく。

しかしパソコンの画面に映っているのは――

SNS。

特に仕事らしいことは何もしていない。

それでもマサシは満足そうにコーヒーを飲みながら、周囲を見渡す。

(やっぱりノマドワークは効率がいい)

そう確信していた。

時間がゆっくりと流れる。

1時間。

2時間。

3時間。

そして――

6時間後。

コーヒーカップはすでに空。

しかしマサシはまだ席に座っている。

しかも途中から、カバンの中から取り出したカップ麺にこっそりお湯を入れて食べ始めていた。

ズルズル……

その瞬間。

背後から店員の声がした。

「お客様」

マサシの肩がビクッと震える。

店員は静かな笑顔で言った。

「追加のご注文がないようでしたら……」

「長時間のご利用はご遠慮いただいております」

さらに小さく続ける。

「あと、持ち込みのカップ麺にお湯を入れるのも……ご遠慮ください」

マサシは固まった。

数分後。

マサシはカフェを出て、足早に夜の街を歩いていた。

ノートパソコンを抱えながら、小さくつぶやく。

「……場所にとらわれない生き方って」

「こういうことじゃない気がするな」

やがて自宅に戻る。

万年床の上に座り、カップ麺をすすりながら言った。

「……やっぱり」

「自宅が最高のコワーキングスペースだな」

そしてテレビを見ながら、満足そうに麺をすすった。