オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ 第17話
マサシの部屋は、相変わらず散らかっていた。
万年床の布団は敷きっぱなし。
床にはスナック菓子の袋、空き缶、脱ぎ捨てた服が無造作に転がっている。
足の踏み場もないほどの混沌とした空間だ。
その中心で、マサシは布団の上に胡坐をかき、ポテトチップスをかじりながらスマホを眺めていた。
画面に流れてくるのは、SNSの投稿。
そこには、まるで別世界のような生活が広がっている。
朝日が差し込む部屋。
整然と並んだ観葉植物。
木製のテーブルの上には、美しく盛り付けられた朝食。
トースト、半熟卵、サラダ、そして丁寧に淹れられたコーヒー。
投稿のタイトルにはこう書かれている。
「丁寧な暮らし」
マサシはポテチを食べる手を止め、しばらくその写真を見つめた。
「……なるほど」
小さくつぶやく。
「こういう“美学”が必要なんだよな」
成功する人間には、生活にも哲学がある。
雑な暮らしでは、良い思考は生まれない。
マサシの中で、妙な納得感が広がっていく。
「よし……」
「俺もやるか」
突然、マサシは立ち上がった。
しかし部屋の現実は厳しい。
どこを見てもゴミ、服、袋、缶。
到底「丁寧な暮らし」など存在しない。
そこでマサシは、部屋の窓際の一角に目をつけた。
「ここだな」
狙いを定める。
そして――
足でゴミ袋を蹴る。
脱ぎ捨てた服を蹴り飛ばす。
空き缶を壁際に押しやる。
グイッ。
ズザッ。
無理やりスペースを作り出す。
そうして完成したのは、畳一枚にも満たない小さな空間だった。
マサシは満足そうに頷く。
「いい感じだ」
次に、演出の準備に入る。
机代わりの小さな台の上に、図書館で借りた洋書を置く。
タイトルは英語で難しそうな本だ。
しかし――
一度も開いたことはない。
そしてマグカップ。
中身は本格コーヒーではなく、ただのインスタント。
だが見た目はそれっぽい。
マサシはスマホを構えた。
角度を調整。
光の入り方を確認。
数回シャッターを切る。
そして一枚、満足のいく写真が撮れた。
SNSに投稿する。
キャプションを書く。
「静寂な朝。思考を整える時間。」
投稿完了。
マサシは満足そうに頷いた。
しかしスマホから目を上げると――
そこには現実が広がっていた。
散乱したゴミ袋。
床一面の服。
空き缶の山。
そしてその中央で、マサシは再び万年床に倒れ込む。
ゴミの山に埋もれるように寝転びながら、小さくつぶやいた。
「……現実は」
「これかよ」


