【不屈な父親奮闘記】第5話「チャンネルの乱」

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金曜日の夜。
一週間の激務を終えた父にとって、この時間だけが唯一の楽しみだった。

冷えたビールを片手に、テーブルにはつまみ。
そしてリビングの大画面テレビで観る――ナイター中継

「さて、今日はナイター中継だ!
大画面で応援するぞー!」

ようやく訪れた至福の時間。
仕事のストレスも、営業先での苦労も、この瞬間だけはすべて忘れられる。

しかし、その夢の時間は長くは続かなかった。

父がテレビの前に座ろうとしたその時、
背後から娘・優子の声が響く。

「あ、ごめんなさい。
今夜は“推し”が出る歌番組SPなので。」

そして、父の手からリモコンが静かに奪われた。

「えっ、ちょっと待て!
今日はナイターだぞ!」

慌てて訴える父。
だが優子は冷静に言う。

「お母さんも見たいって言ってました。
つまり2対1。多数決です。

その瞬間、父の表情が凍りつく。

「なっ……!?」

家庭内に突如持ち込まれた、民主主義という名の制度。
しかしその実態は、父にとってあまりにも不利なルールだった。

父は必死に抵抗する。

「このテレビは俺のボーナスで買ったんだぞ!
家長の権限だ!」

だが、その主張はむなしく空を切る。

母と娘はすでにテレビの前に座り、
キラキラしたアイドルが歌う番組に夢中になっていた。

大画面テレビには、華やかなステージ。
リビングには歓声と拍手。

しかし――

その横で、父は静かに床に座り込んでいた。

手には小さなスマートフォン。
そこで流れているのは、豆粒ほどの野球中継。

父は目を細めながら、ぽつりとつぶやく。

「……ボールが小さすぎて見えない……(涙)」

こうして父のささやかな楽しみは、
家庭内の“多数決”という名の現実によって打ち砕かれるのだった。

だがこれは、家庭という名の小さな社会で繰り広げられる、
父と娘の終わりなき攻防のほんの一幕に過ぎない。

今日もまたこの家では、
父の小さな権利が、静かに試されているのである。