【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第24話|もう一つの誘い

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

「……ちゃんと進むか」

あの怪しいDMを閉じてから数日。

テツヤは、少しずついつもの生活に戻り始めていた。

工場。
コンビニ。
副業。

派手な変化はない。

でも、以前より落ち着いていた。

“焦りすぎない”。

それを少し覚え始めていた。

夜。

コンビニの休憩室。

休憩に入ったテツヤは、缶コーヒーを開けながら小さく息を吐く。

「……危なかったな」

ぽつりと漏れる。

その時だった。

「まあ、でも」

佐藤が椅子に座りながら言う。

「気持ちは分かるけどな」

テツヤは顔を上げる。

佐藤は缶コーヒーを軽く回しながら続ける。

「このままじゃ終わりたくないって感じだろ?」

その言葉に、テツヤは少し黙る。

図星だった。

工場。
コンビニ。
毎月ギリギリの生活。

少しずつ前には進んでいる。

でも、本音を言えば――

もっと変わりたい。

その気持ちは、ずっと消えていない。

佐藤は静かに言う。

「実際さ」

「雇われだけだと限界あるんだよな」

その言葉が、妙にリアルだった。

テツヤも感じていた。

頑張って働いても、急に人生は変わらない。

生活費。
家賃。
税金。

気づけば消えていく。

「だから、別の収入作らないとキツい」

佐藤は真面目な顔だった。

いつもの軽い感じではない。

「……まあ、副業ですよね」

テツヤがそう言うと、佐藤は少しだけ笑う。

「いや、もっと別」

その瞬間。

空気が少し変わる。

テツヤは佐藤を見る。

佐藤は少し迷うような表情をしたあと、小さく言った。

「今度さ、人紹介したいんだけど」

「……人?」

「うん。俺、結構その人に考え方変えてもらったんだよね」

テツヤは黙る。

佐藤は続ける。

「最初、俺も半信半疑だった」

「でも、“雇われだけで終わる人生”って、やっぱキツいじゃん」

その言葉に、少しだけ胸がざわつく。

数日前の怪しいDMとは違う。

佐藤が言っている。

自分を助けてくれた佐藤が。

だから、完全には否定できない。

「別に無理にじゃないよ」

佐藤は軽く言う。

「話聞くだけでもいいし」

その言い方も、妙に自然だった。

数日後。

仕事終わり。

テツヤは佐藤に連れられ、駅前のカフェに来ていた。

店内は落ち着いた雰囲気。

そこで待っていたのは、スーツ姿の男だった。

年齢は三十代前半くらい。

清潔感があり、笑顔も柔らかい。

「初めまして」

その男は、穏やかに笑う。

話し方も丁寧だった。

最初は普通の話だった。

仕事。
将来。
生活。

「今の時代、会社だけに依存するのってリスク高いですよね」

「収入源を複数持つ人が強い時代なんです」

その話自体は、理解できた。

むしろ、納得できる部分も多い。

だが――

少しずつ違和感が増えていく。

「自由な働き方」
「権利収入」
「成功者の考え方」
「仲間」

そんな言葉が増えていく。

さらに、スマホで見せられる。

高級車。
旅行。
タワーマンション。

「この人たち、みんな普通の会社員だったんですよ」

男は笑顔で言う。

テツヤは黙る。

隣を見る。

佐藤は本気で頷いていた。

(……佐藤さん、信じてるんだ)

それが、一番驚いた。

数日前、自分を止めてくれた佐藤。

その佐藤が、今は逆に“別の夢”を語っている。

テツヤの中で、違和感と信頼がぶつかる。

(……これ、大丈夫なのか?)

でも同時に、

(もし本当だったら)

という気持ちも消えない。

男は静かに言う。

「人生って、出会いで変わるんですよ」

その言葉が、妙に頭に残る。

帰り道。

夜風が冷たい。

テツヤは黙って歩く。

隣の佐藤は、少し嬉しそうだった。

「どうだった?」

その問いに、すぐ答えが出ない。

怪しい気もする。

でも、佐藤が本気だから簡単には否定できない。

「……分からないです」

正直に答える。

佐藤は笑う。

「まあ、最初はみんなそう」

その言葉が、逆に少し怖かった。

部屋に戻る。

ノートを開く。

しばらく考える。

そして、ゆっくり書く。

「信頼してる人ほど断りにくい」

さらに続ける。

「佐藤さんは悪い人じゃない」

ペンが止まる。

そして最後に、ゆっくり書く。

「だから余計に迷う」

静かな部屋。

テツヤは、また新しい“揺れ”の中にいた。