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【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第21話|甘い話

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

【前回のあらすじ】

副業を始めてから数か月。工場勤務とコンビニのアルバイトを続けながら、テツヤは地道に実績を積み重ねてきた。その努力が少しずつ評価され、初めて継続案件の相談を受けるまでに成長する。

以前のテツヤなら、報酬だけを見て飛びついていたかもしれない。しかし、これまでの失敗や経験を通じて、「焦らず考えること」の大切さを学び始めていた。

そんなある日、新しい案件の案内が届く。今までより高い報酬、将来性、継続収入――。魅力的な言葉が並ぶそのメッセージは、テツヤの心を少しずつ揺らし始めるのだった。

【今回の見どころ】

今回のテーマは「甘い誘惑」です。

努力を続けてきたテツヤだからこそ、「もっと成功したい」という気持ちが芽生えます。その前向きな気持ちを狙うように届いた一通のメッセージ。期待と不安が入り混じる中、テツヤの心が少しずつ揺れ始めます。

【本文】

「新規案件のご相談があります」

そのメッセージが届いてから、数日が経った。

継続案件。

以前のテツヤなら、迷わず飛びついていたかもしれない。

だが今は違う。

“ちゃんと考える”。

それを覚え始めていた。

工場の昼休み。

弁当を食べながら、スマホを見る。

何度も読み返したメッセージ。

「現在より少し作業量が多めですが、継続案件になります」

その文章は、今でも少し嬉しかった。

(……認められたってことだよな)

そう思う。

続けてきたからこそ届いた話。

それは素直に嬉しかった。

だが同時に、不安もある。

今の生活で回せるのか。
また無理をして崩れないか。

考えることは多かった。

その日の夜。

コンビニの休憩室で、スマホに新しい通知が届く。

「さらに条件の良い案件をご紹介できます」

テツヤは眉をひそめる。

(……さらに?)

メッセージを開く。

「継続報酬型で、今後かなり伸びる案件です」

「本気で取り組める方だけにご紹介しています」

「将来的には月収数十万円以上も可能です」

そこまで読んだところで、テツヤの指が止まる。

(……数十万?)

今までとは桁が違った。

もちろん、すぐに信じたわけではない。

だが――

心が動いたのは事実だった。

「……そんなにいくのか?」

小さくつぶやく。

さらに読み進める。

「やる気のある方限定」
「将来性のある市場」
「今始めた人が有利」

どこか、“選ばれている感覚”を刺激する文章だった。

(……俺でも、変われるのか?)

ふと、そんな考えが浮かぶ。

工場。
コンビニ。
副業。

毎日少しずつ積み上げている。

でも、生活が劇的に変わったわけじゃない。

心のどこかでは、ずっと思っていた。

「もっと変わりたい」

その感情を、まるで見透かしたような文章だった。

部屋に戻る。

ベッドに座り、スマホを見る。

何度も読み返す。

「月収数十万円」
「継続報酬」
「本気の人限定」

魅力的だった。

正直、かなり。

(……でもな)

違和感もあった。

うますぎる話。

本当にそんなものがあるのか。

だが同時に、別の感情も出てくる。

(ここで踏み込まなきゃ、ずっとこのままなんじゃないか)

焦り。

置いていかれる感覚。

それが、少しずつ判断を揺らし始めていた。

数日後。

メッセージのやり取りは続いていた。

相手はやたら返信が早い。

丁寧で、親切。

「テツヤさんは向いてると思います」

「真面目な人ほど伸びます」

そんな言葉を何度も送ってくる。

そのたびに、少しずつ気持ちが傾く。

(……俺、向いてるのか?)

今まで、そんなふうに言われたことはほとんどなかった。

だからこそ、響いてしまう。

さらに相手は続ける。

「今の段階なら、まだ少人数だけです」

「枠が埋まる前に動いた方がいいです」

“今だけ”。

その言葉が、焦りを加速させる。

夜。

ノートを開く。

いつものように考えを整理しようとする。

だが、今日はまとまらない。

「本当にチャンス?」
「うますぎる?」
「でも変わりたい」

書いては消し、また書く。

頭の中が整理できない。

以前なら、勢いで飛びついていた。

でも今は違う。

だからこそ苦しい。

慎重になっている自分と、前に進みたい自分。

その二つがぶつかっていた。

コンビニの帰り道。

夜風が冷たい。

スマホを見る。

新しい通知。

「もし興味があれば、簡単な説明通話もできます」

テツヤは立ち止まる。

しばらく画面を見つめる。

(……どうする)

胸の奥がざわつく。

これはチャンスなのか。
それとも――

考えても、まだ答えは出なかった。

だが、一つだけ確かなことがある。

“気持ちが揺れている”。

それが、今のテツヤだった。

部屋に戻る。

机に座る。

ノートを開く。

ゆっくりと書く。

「うますぎる気がする」

少し間を空ける。

そして、さらに書く。

「でも、変わりたい」

ペンが止まる。

その言葉が、今の本音だった。

窓の外を見る。

静かな夜。

だが、テツヤの中では何かが大きく揺れ始めていた。

【作者コメント】

今回描きたかったのは、「努力している人ほど甘い話に心が動く」という心理です。

テツヤは決して楽をしたいと思っているわけではありません。これまで地道に努力を続けてきたからこそ、「もっと成長したい」「もっと生活を変えたい」という気持ちが強くなっています。

そんな前向きな気持ちは素晴らしいものですが、同時に冷静な判断を失わせることもあります。

第21話は、この後に続く「違和感」「崩れる寸前」「もう一つの誘い」へとつながる導入の回です。ここからテツヤがどのような選択をしていくのか、ぜひ最後まで見届けていただければ嬉しいです。