オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第16話
【前回のあらすじ】
佐藤の紹介で副業を始めたテツヤだったが、現実は想像以上に厳しかった。
昼は工場、夜はコンビニ、そして空いた時間には副業。思うように作業は進まず、寝不足の日々が続く。初めて受け取った報酬も決して多くはなく、「本当に続ける意味があるのか」と迷うこともあった。
それでも、佐藤の「やる理由を一つでも持てるかどうか」という言葉を胸に、テツヤは自分で選んだ道を、もう少しだけ歩いてみようと決意する。
【今回の見どころ】
今回のテーマは「小さな成長」です。
劇的な成功ではなく、ほんの少し作業が早くなり、少しだけ報酬が増える――そんな小さな積み重ねが、自信へと変わっていきます。大きな変化はなくても、「昨日の自分より前へ進めた」と実感できることの大切さを描いた一話です。
【本文】
副業を始めてから、しばらくが経った。
最初に感じた“思っていたよりきつい”という感覚は、今も消えていない。
むしろ、それは日常の一部になっていた。
昼は工場。
夜はコンビニ。
そして、その合間に副業。
決して楽な生活ではない。
寝る時間は削られ、気を抜けばすぐに疲れが溜まる。
それでも――
テツヤは、やめていなかった。
「……終わった」
パソコンの画面を見つめながら、小さくつぶやく。
一つの作業を終えるまでにかかる時間は、以前よりも少しだけ短くなっていた。
ほんの少しの違い。
でも、それは確かに変化だった。
(……慣れてきたな)
そう思う。
最初は何をするにも時間がかかっていた。
指示の意味を理解するのにも、戸惑っていた。
だが今は違う。
完璧ではない。
それでも、“進み方”が分かってきていた。
ある日の夜。
作業を終えたあと、画面に表示された数字を見る。
報酬。
以前よりも、少しだけ増えていた。
「……ちょっと上がってるな」
驚くほどの額ではない。
だが、確実に“増えている”。
その事実が、じわっと胸に広がる。
(……ちゃんとやれば、変わるんだな)
小さく実感する。
派手な成果ではない。
でも、“ゼロではない”。
それだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
翌日。
工場での作業中、ふと周囲を見る。
同じ場所。
同じ人たち。
同じ作業。
何も変わっていない。
それでも、テツヤの中では何かが違っていた。
(……前より、ちゃんと考えてるな)
ただ働いているだけではない。
自分の時間の使い方や、これからのことを考えている。
それが、少しだけ自分を変えていた。
夜。
コンビニの休憩時間。
佐藤と顔を合わせる。
「どう?続いてる?」
軽い口調。
テツヤは少し考えてから答える。
「……まだ、やってます」
「いいじゃん」
佐藤は笑う。
「で、どう?」
その問いに、少しだけ言葉を探す。
「……楽じゃないですね」
正直に言う。
「でも、ちょっとだけ分かってきた感じはあります」
佐藤は小さく頷く。
「それで十分だよ」
その言葉が、妙にしっくりくる。
「いきなりうまくいくやつなんていないしさ」
「続けてるやつだけが、少しずつ見えてくる」
シンプルな言葉だった。
だが、今のテツヤにはよく分かる。
帰り道。
夜の街を歩く。
以前と同じ景色。
でも、見え方が少し違う。
(……ほんとに少しだけだな)
そう思う。
劇的な変化はない。
生活も、環境も、大きくは変わっていない。
それでも――
(前よりは、マシか)
そう思える自分がいた。
部屋に戻る。
ノートを開く。
これまで書いてきた言葉の横に、新しく書き加える。
「少し慣れた」
「時間短縮できた」
「報酬、少し増えた」
並べてみると、小さな変化ばかりだ。
でも――
それは確実に“前進”だった。
ペンを止める。
少しだけ考える。
そして、もう一行。
「ゼロじゃない」
静かに書き足す。
その言葉に、少しだけ力がこもる。
(……これでいいのかもしれないな)
そう思う。
大きな成功じゃなくていい。
一気に変わらなくてもいい。
ただ、少しずつでも進んでいるなら。
それでいい。
窓の外を見る。
夜の街。
変わらないはずの景色。
でも、確実に違う。
(……もうちょい、やるか)
小さくつぶやく。
その言葉には、無理も焦りもなかった。
ただ、“続ける理由”が少しだけ増えただけだった。
【作者コメント】
第16話で描きたかったのは、「成長はゆっくり訪れる」ということです。
多くの人は、大きな成功や劇的な変化を期待して努力を始めます。しかし実際には、変化はほんの少しずつしか現れません。作業時間が短くなること、報酬が少し増えること、自分の考え方が少し変わること――そうした小さな積み重ねが、やがて大きな成長へとつながっていきます。
この回でテツヤが喜んでいるのは、お金そのものではありません。「昨日の自分より少し成長できた」という実感です。その感覚を持てるようになったことが、これまでのテツヤとの大きな違いでもあります。
また、「ゼロじゃない」という言葉には、この物語全体のテーマを込めました。人生は一気に変わるものではありません。しかし、ほんのわずかでも前へ進み続ければ、昨日とは違う景色が見えてきます。
第16話は、派手な出来事こそありませんが、テツヤが「結果を追い求める人」から「成長を楽しめる人」へと変わり始めた、大切な一話となっています。そして、この小さな前進が、やがて新たなチャンスと試練へつながっていくことになります。


