【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第14話|知らなかった世界

オリジナルマンガ

「今度、見に来る?」

佐藤にそう言われた日から、数日が経った。

特に連絡が来ないまま、テツヤはいつもの生活を続けていた。

昼は工場。
夜はコンビニ。

だが、どこか意識の中に残っている。

(……どうなんだろうな)

あの“副業”という話。

正直、いいイメージはなかった。
過去に一度、失敗している。

甘い言葉に乗って、結果的に何も残らなかった経験。

それがあるからこそ、慎重になっている自分がいる。

それでも――

(見に行くだけなら)

そう思った自分も確かにいた。

そして、ある日の夕方。

コンビニの休憩室でスマホを見ると、一件のメッセージが届いていた。

佐藤からだった。

「今日、時間ある?軽く見せるよ」

短い文章。

変に押しつける感じもない。

(……どうする)

一瞬だけ考える。

だが、すぐに答えは出た。

「大丈夫です」

そう返信する。

数分後、「じゃあこのあと」と返ってくる。

あまりにも自然な流れだった。

仕事を終え、指定された場所へ向かう。

駅から少し離れた、小さな雑居ビル。

派手さはない。
むしろ、少し古い印象すらある。

(……ここか)

一瞬、足が止まる。

不安がないわけではない。

だが、それ以上に「見てみたい」という気持ちが勝っていた。

深く息を吸い、階段を上がる。

ドアの前。

軽くノックする。

「どうぞー」

中から佐藤の声。

扉を開ける。

中は思っていたよりも普通だった。

デスクがいくつか並び、パソコンが置かれている。

数人の人が、それぞれ何か作業をしていた。

(……え?)

拍子抜けするほど、普通の空間だった。

「お、来たね」

佐藤が手を振る。

「どうぞ、適当に座って」

言われるままに椅子に座る。

周りを見渡す。

誰もこちらを気にしていない。

それぞれが、自分の作業に集中している。

「ここで何してるんですか?」

率直に聞く。

「簡単に言うと、ネット系の仕事」

佐藤はあっさり答える。

「文章書いたり、データまとめたり、ちょっとした営業したり」

曖昧だが、怪しさはない。

むしろ、地味だった。

「……地味ですね」

思わず言う。

佐藤は笑う。

「だろ?でもこういうのが一番続くんだよ」

その言葉に、少しだけ納得する。

派手なものほど、続かない。

それは身をもって知っていた。

「すぐに稼げるわけじゃないけどさ」

佐藤は続ける。

「やった分だけ、少しずつ返ってくる感じ」

テツヤは黙って聞く。

(……普通だな)

正直な感想だった。

夢みたいな話はない。
特別な成功例も出てこない。

でも――

(ちゃんとしてる)

そう思えた。

それが、一番大きかった。

しばらくその場にいて、作業の様子を見る。

誰かが特別扱いされているわけでもない。

地道に、淡々と進めている。

それだけだった。

「どう?」

佐藤が聞く。

「……思ってたのと違いました」

正直に答える。

「もっと、怪しいかと思ってました」

少し笑いながら言う。

佐藤も笑う。

「まあ、そう思うよな」

そのやり取りが、妙に安心できた。

帰り道。

夜の街を歩きながら、考える。

(……どうする)

やるか、やらないか。

それだけの話。

でも、以前とは違う。

焦っていない。
飛びつこうともしていない。

ちゃんと、自分で考えている。

(……悪くないな)

小さくつぶやく。

選択肢があるということ。

それ自体が、少しだけ心を軽くしていた。

部屋に戻る。

ノートを開く。

「副業」という言葉の横に、さらに書き加える。

「続くかどうか」

ペンを置く。

「……やってみるか」

小さく言う。

それは、勢いではなかった。

ただ、「試してみる」という選択だった。

完璧な答えではない。

でも――

確実に一歩だった。