【サラリーマン奮闘記】第9話「即レスの罠(不審なメールとウイルス騒動編)」

オリジナルマンガ

「ビジネスはスピードが命だ!メールは即座に開いて即レスしたまえ!」

朝のオフィスで、斎藤課長はいつものように大きな声で部下たちに持論を語っていた。彼にとって“仕事ができる人間”とは、何よりも返信が早い人間のことらしい。実際、課長は受信トレイを開くやいなや、内容もろくに確認せず、片っ端からメールを開いては返信を打つという荒業を披露していた。

「ほら見ろ、もう返信したぞ。これが仕事の速さというものだ!」

得意げに胸を張る課長を横目に、タケルは内心ため息をつく。

(課長……差出人も見ずに開いてますよね……それ、ただの危険行為です)

そんな中、一通のメールが課長の目に留まる。

「おお、A社からか!早いな!」

課長は嬉しそうに画面を指差す。そこには「【重要】先日の請求書および見積書の送付について」という件名のメールが表示されていた。添付ファイルには「invoice.zip」という文字。

しかし、その画面を横から見たタケルの顔色が変わる。

送信元のアドレスは「xyz_999@……」。
さらにメール本文の日本語は、どこか不自然でフォントも微妙に崩れている。

(……これは怪しい)

タケルは思わず声を上げた。

「課長、待ってください!!」

「送信元が怪しいです!ばらまき型マルウェアの可能性があります!」

「添付ファイルがZIPなのも危険です!開いちゃダメです!」

オフィスの空気が一瞬止まる。

しかし斎藤課長は鼻で笑った。

「うるさい!」

「俺のビジネスマンとしての直感は本物だ!」

「重要メールを放置するわけにはいかん!」

そう言いながら、迷いなくマウスを動かす。

カチカチッ

添付ファイルをダブルクリック。

タケルは思わず目を閉じた。

(……手遅れだ)

その瞬間、パソコンの画面が一瞬固まり、妙な警告音が鳴り響く。

「……あれ?」

課長が首をかしげた時には、すでに遅かった。

騒ぎを聞きつけ、総務のミユキがすぐに駆けつける。

「課長、そのPC、触らないでください!」

ミユキは画面を確認すると、即座に宣言した。

「サイバーセキュリティ規定に基づき、このPCは初期化決定です!」

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」

課長の悲鳴がオフィスに響く。

しかし処置は容赦なかった。
セキュリティ対策のため、PCは強制的に初期化されることになったのだ。

数分後。

画面は真っ白な初期状態に戻っていた。

斎藤課長は椅子に崩れ落ちる。

「ま、待ってくれ……」

「ブラウザにお気に入り登録していた……」

ラーメン屋リストが全部消えた……

本気で泣きそうな顔をする課長を見て、タケルは静かに胃薬を取り出す。

(会社の情報漏えいを防げたのは良かったですが……)

(課長のITリテラシーは、まだまだ復旧不能ですね)

こうして、斎藤課長の“即レス主義”は、
会社のセキュリティ教育の新たな教材として語り継がれることになったのだった。