オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ 第34話
休日の午後。
やるべきタスクは山ほどあるのに、なぜか手が動かない。
PCの前に座っているだけで時間だけが過ぎ、気づけば意味もなくスマホをスクロールしている――そんな“何もしていないのに疲れている状態”に陥っていたマサシ。
「……ダメだ、全然集中できない」
原因を探すべく、いつものように「トップエリートの習慣」と検索する。
すると目に飛び込んできたのは、“脳のパフォーマンスを最大化する最強の習慣”という記事だった。
「……マインドフルネス、か」
スティーブ・ジョブズ、Google幹部、世界の成功者たちが実践しているというその習慣に、マサシの目が光る。
「なるほど……」
「俺の脳が鈍っているのは、処理しきれない“雑念=キャッシュ”が溜まりすぎているからなんだ」
「つまり一度、脳を再起動すればいい」
ロジックは完璧だった。
こうしてマサシは、“脳の最適化”を決意する。
まずは環境づくりから。
照明を落とし、部屋を薄暗くする。
お香を焚き、空間にそれっぽい香りを充満させる。
スマホでは「DNAを修復する528HzヒーリングBGM」を再生。
「よし……整った」
ヨガマットの上に座り、結跏趺坐を組む。
背筋を伸ばし、静かに目を閉じる。
「吸って……吐いて……」
「ただ呼吸に意識を向ける……」
「ノイズを消し去り、無へ――」
完璧だった。
だが――
その“無”は、わずか3分で崩壊する。
(今日の晩飯……何にする?)
「……いや違う、集中だ」
(唐揚げ?いやハンバーグもありか……)
「違う違う、呼吸……呼吸……」
(そういえば10年前のあの発言……なんであんなこと言ったんだ……!?)
「やめろぉぉぉ!!」
さらに、
(あのドラマの脇役の名前なんだっけ……?)
(なんで思い出せない……気になる……)
雑念は次々と連鎖し、膨張する。
気づけば、頭の中は“静寂”どころか“会議室”状態。
「消えろ……消えろ……」
必死に雑念を押し込めようとするほど、逆に増殖する思考。
呼吸は乱れ、冷や汗が噴き出し、心拍数は上昇。
もはや瞑想ではなく、“脳内デバッグ地獄”だった。
「なんで……無になれないんだ……」
「俺の脳……バグってるのか……」
CPU使用率100%。
キャッシュどころか、メモリもオーバーフロー。
そのまま、限界を迎える。
――数時間後。
「セッションが終了しました」
スマホから流れる穏やかな音声。
だが、その声に気づく者はいない。
マサシはヨガマットの上で、完全に横倒しになり、よだれを垂らしながら爆睡していた。
雑念との戦いに敗れた脳は、強制的にシャットダウンされていたのだ。
部屋にはまだ、お香の煙とヒーリングBGMが虚しく流れている。
しばらくして目を覚ましたマサシは、ぼんやりとスマホを手に取る。
そこには、冷酷なログが表示されていた。
――本日のマインドフルネス(無の境地):0秒
――雑念による脳波の乱れ:MAX
――強制シャットダウンによる深い睡眠:4時間
「……」
しばらく画面を見つめた後、ゆっくりと呟く。
「……違う」
「これは失敗じゃない」
「“深い休息”には入れたはずだ……」
そう言いながら、再び横になるマサシ。
だが次の瞬間、また雑念がよぎる。
(晩飯……結局どうするんだ?)
「……もういい」
こうしてマサシは今日もまた――
“無”を目指して、“雑念の宇宙”を拡張し続けるのだった。


