【サラリーマン奮闘記】第3話「有給休暇の壁と、意外な切り札」

オリジナルマンガ

「自分を変える」キャンペーンを密かに続けているタケルは、これまでの自分なら絶対にやらなかった行動を決意する。
それは――有給休暇の申請だった。

もちろん理由は「私用」。
だがその“私用”の正体は、週末に開催される全国ご当地ラーメンフェス。全国から名店が集まる夢のイベントで、ラーメン好きのタケルにとっては一年で最も楽しみにしていた行事だった。

しかし問題はただ一つ。
斎藤課長の存在である。

これまでの職場では、有給休暇は「制度としては存在するが、実際には使えないもの」という暗黙のルールがあった。
申請した瞬間、説教が始まるのは目に見えている。

それでもタケルは決めていた。
震える手で申請書を持ち、課長の机へ向かう。

「課長……金曜日、有給休暇を申請させていただきます」

その瞬間、予想通り斎藤課長の眉がつり上がった。

「はあ!? 有給!?」

「この忙しい時期に何を考えてるんだ!」

机を叩きながら怒鳴る。

「俺が若い頃はな、親の死に目以外で休んだことなんかなかったぞ!」

「気合が足りん!」

そう言って申請書を突き返す。
完全にいつものパターンだった。

(やっぱりダメか……)

諦めかけたその時、タケルは思い出す。
総務のミユキから、こっそり聞いていたある情報を。

タケルは静かに深呼吸した。

そして、真顔で言う。

「お言葉ですが課長。今年度から人事評価制度が変わりまして」

「部下の有給取得率が目標に達しない場合……」

「管理職のボーナス査定が10%カットされるそうです」

一瞬、空気が止まった。

「……ボーナス?」

斎藤課長の顔が引きつる。

頭の中に浮かぶのは、
住宅ローン。
そして毎月のゴルフ代

沈黙の数秒後――

斎藤課長の態度は180度変わった。

「ば、馬鹿野郎!」

「俺は常に部下の健康を第一に考えている!」

「休め! 今すぐ休め!」

さらに続ける。

「月曜も休んで4連休にしろ!」

勢いよく承認印を連打する課長。
そのスピードは、会社史上最速だった。

そして迎えた金曜日。

タケルは全国ラーメンフェスの会場にいた。

屋台から漂う香り、湯気、行列。
全国の名店の味が一堂に会する夢の空間。

タケルは念願の一杯をすすりながら、深く息を吐く。

「うまい……」

その時、スマホが震えた。

画面には斎藤課長からのメッセージ。

『おいタケル、例の書類どこだ?』

『急ぎ』

タケルはスマホを見つめる。

そして――

そっとポケットにしまった。

既読はつけない。

ラーメンをすすりながら、小さくつぶやく。

「課長の査定のために……」

「今日は徹底的に休みますから」

こうしてタケルは、
人生で初めて**“罪悪感のない有給休暇”**を満喫するのだった。