【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第13話|新しい出会い

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最終面接の不採用から、数日が経った。

あの日のメールは、もう何度も見返していた。

「誠に残念ながら――」

その一文は、頭の中に残ったままだった。

だが、不思議と引きずってはいなかった。

悔しさはある。
でも、それ以上に残っているのは――

(……やるしかないか)

という感覚だった。

生活は変わらない。

昼は工場。
夜はコンビニ。

それでも、以前のような“止まっている感覚”はなかった。

少しずつでも、自分は動いている。

そう思えるだけで、気持ちは違っていた。

ある日の昼休み。

工場の休憩室で弁当を食べていると、隣の席に誰かが座った。

見慣れない顔だった。

「ここ、いい?」

少し軽い口調。

「あ、どうぞ」

テツヤは小さく頷く。

男は三十前後くらいだろうか。
作業着の着こなしもどこかラフで、他の社員とは少し雰囲気が違っていた。

「最近入った?」

男が聞く。

「いや……もう少しで一年くらいです」

「へぇ、そうなんだ」

興味があるのかないのか分からない返事。

それでも、どこか話しやすい空気だった。

「俺、佐藤っていうんだけど」

「あ、テツヤです」

軽く会釈をする。

それだけのやり取り。

でも、その日はなぜか会話が続いた。

仕事の話。
シフトの話。
工場のちょっとした愚痴。

特別な内容ではない。

でも、どこか気が楽だった。

「テツヤってさ、なんか考えてそうだよね」

ふと、佐藤が言う。

「え?」

「いや、なんか他の人と違う感じする」

思わず苦笑する。

「そんなことないですよ」

そう答えながらも、少しだけ引っかかる。

(……違う?)

そんなふうに言われたのは初めてだった。

休憩が終わり、仕事に戻る。

それでも、その言葉が頭に残っていた。

数日後。

また同じ時間、同じ場所で佐藤と顔を合わせる。

自然と隣に座るようになっていた。

「最近どう?」

軽い調子。

「まあ、普通です」

少し迷ってから続ける。

「……この前、面接受けて落ちましたけど」

言ってしまったあと、少しだけ後悔する。

別に言う必要はなかった。

だが、佐藤は特に驚いた様子もなく頷いた。

「あー、そういう時期か」

まるで当たり前のように言う。

「……そういう時期、ですか?」

「うん。俺も昔そうだったし」

少しだけ笑う。

その言葉に、テツヤは少しだけ興味を持った。

「今は……?」

「今はまあ、いろいろやってるよ」

曖昧な答え。

だが、それが逆に気になった。

「いろいろって……?」

「副業とか、知り合いの仕事手伝ったりとか」

軽く言う。

(副業……)

その言葉に、一瞬だけ嫌な記憶がよぎる。

だが、以前とは違った。

逃げる気持ちはなかった。

「ちゃんとしたやつですよ」

テツヤの表情を見て、佐藤が笑う。

「怪しいやつじゃない」

つられて少し笑う。

「ちょっと興味あるなら、今度見に来る?」

さらっと言う。

その軽さに、逆に構えなくて済んだ。

(……どうする)

一瞬だけ考える。

以前なら、すぐに飛びついていたかもしれない。
あるいは、完全に避けていたかもしれない。

でも今は違う。

(……見に行くだけなら)

冷静に考えている自分がいた。

「……じゃあ、少しだけ」

そう答える。

「オッケー、じゃあまた連絡するわ」

軽い返事。

それだけの約束。

でも――

その瞬間、何かが少しだけ動いた気がした。

帰り道。

いつもの夜の街。

変わらない景色。

それでも、テツヤの中には新しい感覚があった。

(……なんだろうな、これ)

不安でもない。
期待でもない。

ただ、「少し先に何かあるかもしれない」という感覚。

それは、これまでの就活とは違うものだった。

部屋に戻る。

ノートを開く。

これまでの「就職」という言葉の横に、もう一つ書き加える。

「選択肢」

小さく頷く。

一つじゃない。

道は、いくつもある。

「……まあ、見てみるか」

静かにつぶやく。

その言葉には、少しだけ余裕があった。