【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第32話|初めての応募

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】
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【前回のあらすじ】

ネットワークビジネスへの誘いを断り、「誰かに人生を変えてもらう」のではなく、自分自身の力を少しずつ増やしていこうと考え始めたテツヤ。

本屋でWebライティングの本を手に取ったことをきっかけに、SEOや文章の書き方について勉強を始める。

しかし、本を読んでいるだけでは何も変わらない。

そう気づいたテツヤは、実際に自分で文章を書いてみることにした。

最初は何を書けばいいのか分からない。

書いては消し、また書いては直す。

それでも諦めず、「深夜のコンビニで働いて分かったこと」という身近なテーマで、一つの文章を完成させた。

誰にも読まれていない。

一円にもなっていない。

それでも、自分でゼロから作った文章だった。

「学ぶ」から「やってみる」へ。

テツヤは、小さいながらも確かな一歩を踏み出していた。

【今回の見どころ】

第32話では、テツヤが初めて**「自分の文章に値段がつく世界」**を意識します。

練習として文章を書くことと、仕事として文章を書くことは違います。

「初心者歓迎」と書かれた案件を見つけても、「自分なんかが応募していいのか」「もっと勉強してからの方がいいのではないか」と、なかなか応募ボタンを押せません。

ここで描きたいのは、派手な成功ではありません。

自信がついてから行動するのではなく、自信がない状態でも、小さく挑戦してみること。

そして、テツヤがようやく応募した案件に対して届いた一通のメッセージ。

それは採用通知ではありません。

しかし、テツヤにとって「自分の力で仕事を取りに行く」という、新しい世界への入口になります。

【本文】

ある日の昼休み。

工場の休憩室。

テツヤは弁当を食べ終えると、スマホを取り出した。

最近、休憩時間の過ごし方が少し変わった。

以前ならSNSを眺める。

ニュースを見る。

なんとなく動画を流す。

それだけだった。

だが最近は違う。

「Webライティング 初心者 仕事」

検索する。

いくつものページが表示される。

記事作成。

ブログ記事。

商品紹介。

体験談。

「……結構あるんだな」

その中に、

「未経験者歓迎」

という文字があった。

指が止まる。

案件を開く。

『初心者歓迎!生活に関する記事作成』

文字数、1,500文字程度。

報酬、1記事1,000円。

テツヤは画面をじっと見る。

「……千円か」

金額だけ見れば大きくない。

コンビニで働けば、一時間ほどで稼げる金額だ。

でも――

テツヤにとって、その1,000円は少し意味が違った。

自分が書いた文章で、お金をもらう。

(……そんなこと、本当にできるのか?)

応募条件を読む。

特別な資格は必要ない。

経験不問。

納期を守れる人。

丁寧に連絡できる人。

「これなら……」

一瞬、そう思う。

だが。

応募ボタンの前で指が止まった。

(いや、待てよ)

まだ文章を二つ書いただけだ。

SEOだって、よく分かっていない。

文章だって上手くない。

もっと勉強してからの方がいいんじゃないか。

画面を閉じる。

「……まだ早いか」

その日の夜。

コンビニの休憩室。

缶コーヒーを飲みながら、また同じ案件を見る。

まだ募集している。

応募者数――18人。

「18人……」

経験者もいるだろう。

自分が選ばれるわけがない。

また閉じる。

翌日。

また見る。

応募者数――23人。

「増えてるな……」

閉じる。

さらに翌日。

自宅。

Webライティングの本を開いている。

しかし、内容が頭に入ってこない。

気になっているのは、あの案件だった。

テツヤは本を閉じる。

「……俺、何やってんだろ」

勉強している。

文章も書いた。

それなのに、仕事を見つけた瞬間に逃げている。

ふと、第31話でノートに書いた言葉が目に入る。

「やってみる」

テツヤはしばらく、その文字を見る。

「…………」

そしてパソコンを開いた。

例の案件を表示する。

応募ボタン。

また緊張する。

(落ちたら?)

そう思った瞬間、自分で少し笑った。

「……別に、何も失わないか」

採用されなくても、今と同じ。

失うものなんてない。

むしろ応募しなければ、最初から可能性はゼロだ。

応募フォームを開く。

「自己紹介をお願いします」

「……自己紹介」

また手が止まる。

何を書けばいいのか分からない。

『Webライターとして活動しています』

……嘘だ。

消す。

『ライティング経験があります』

これも違う。

消す。

しばらく考える。

そして、正直に書く。

『現在、工場勤務とコンビニ勤務をしながら、Webライティングを勉強しています。実務経験はありませんが、納期を守り、丁寧に対応いたします。』

読み返す。

地味だ。

何のアピールにもなっていない気がする。

でも――

「……これが今の俺だよな」

さらに、練習で書いた文章についても簡単に記載する。

入力が終わった。

残るのは、

「応募する」

のボタンだけ。

マウスを合わせる。

心臓が少し速くなる。

ネットワークビジネスの集まりに行ったときとは、違う緊張だった。

誰かに誘われたわけではない。

誰かに「やれ」と言われたわけでもない。

自分で見つけた。

自分で考えた。

自分で決める。

「……よし」

クリックする。

画面が切り替わる。

『応募が完了しました』

それだけ。

何か特別な演出があるわけではない。

人生が変わったわけでもない。

それでも――

テツヤはしばらく画面を見ていた。

「……応募した」

小さくつぶやく。

少しだけ嬉しかった。

そして翌日。

工場の昼休み。

スマホを見る。

通知が一件。

例の案件だった。

「……!」

慌てて開く。

『ご応募ありがとうございます。いくつか確認させてください。』

採用ではない。

質問だった。

『週にどの程度作業できますか?』

『修正依頼への対応は可能でしょうか?』

『継続案件に興味はありますか?』

テツヤは画面を見つめる。

(……返事が来た)

たったそれだけ。

なのに、妙に嬉しい。

今までの副業は、用意された仕事をこなしていただけだった。

でも今回は違う。

自分から応募した。

そして――

相手が自分に返事をしてくれた。

「…………」

何と返信するか考える。

すぐに文章を書く。

だが、途中で止まる。

読み返す。

直す。

また読む。

以前なら面倒に感じていたかもしれない。

今は違った。

「よろしくお願いいたします」

最後まで入力する。

送信。

スマホを置く。

休憩室の窓から、外を見る。

工場の景色は何も変わっていない。

午後になれば、またいつもの作業が始まる。

夜になればコンビニもある。

生活は何も変わっていない。

それでも。

テツヤの中には、これまでとは違う感覚があった。

(俺でも……仕事を取りに行けるのかもしれない)

もちろん、まだ採用されたわけではない。

このまま断られるかもしれない。

それでもいい。

応募したから、返事が来た。

応募しなければ、このやり取りすら生まれなかった。

その日の夜。

ノートを開く。

一行だけ書く。

「自信がついてからじゃなくてもいい。」

少し考える。

その下に続ける。

「やってみたあとに、自信がつくこともある。」

テツヤはペンを置いた。

まだ何者でもない。

Webライターでもない。

成功したわけでもない。

ただ、一件の仕事に応募しただけ。

それでも――

昨日までの自分にはできなかったことを、

今日は一つ、できた。

テツヤは少しだけ笑った。

結果は、まだ分からない。

でも今は、それでよかった。

【作者コメント】

今回は、あえてテツヤをすぐに「Webライターとして成功」させませんでした。

第30話で「自分に投資する」。

第31話で「小さく始めてみる」。

そして第32話で「初めての応募」。

このように一段ずつ進ませることで、テツヤの成長がより現実的になると思います。

特に今回描きたかったのは、「準備不足だから行動できない」という気持ちです。

新しいことを始めようとすると、「もう少し勉強してから」「もう少し上手くなってから」「自信がついてから」と考えてしまいます。

しかし、自信は必ずしも行動する前にあるものではありません。

応募する。返事をもらう。質問に答える。失敗する。修正する。

そうした経験を積み重ねる中で、少しずつ生まれてくる自信もあります。

そして、この第32話では、まだ採用結果を出さないのがポイントです。

「返事が来た」というところで終えることで、読者にも「果たしてテツヤは初仕事を獲得できるのか?」という次回への興味を残せます。