【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第31話|小さく始めてみる

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】
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【前回のあらすじ】

ネットワークビジネスへの誘いを断り、自分自身で進む道を選んだテツヤ。

すぐに大きく稼げる方法を探すのではなく、「まずは自分を増やそう」と考えるようになった。

そんなある日、本屋で手に取ったWebライティングの本をきっかけに、生成AI、動画編集、プログラミングなど、これまで自分とは縁がないと思っていた世界にも目を向け始める。

副業の作業を終えた夜、本を開き、分からないことを一つずつノートに書き留めていく。

劇的に生活が変わったわけではない。

収入が急に増えたわけでもない。

それでも、「お金を増やすこと」だけを考えていた頃とは違い、自分の知識や経験を増やすことも未来への投資なのだと、少しずつ理解し始めていた。

テツヤはようやく、誰かに人生を変えてもらうのではなく、自分自身を変えるための一歩を踏み出し始めていた。

【今回の見どころ】

第31話では、「勉強を始めたテツヤ」が、さらに一歩進んで実際に自分で何かを作ってみる姿を描きます。

本を読んでいるだけなら、失敗することはありません。しかし、実際に手を動かしてみれば、分からないことや思い通りにならないことが次々に出てきます。

以前のテツヤなら、「自分には向いていない」とそこで諦めていたかもしれません。

しかし今回は違います。

うまくいかなくても調べる。分からなければやり直す。そして、小さくても「自分で作ったもの」を完成させる。

誰かに見せるほどの成果ではなくても、その小さな成功体験がテツヤに新しい感覚を与えていきます。

【本文】

ある日の夜。

「……なるほど」

テツヤは机に向かいながら、本のページをめくっていた。

机の上には、先日買ったWebライティングの本。

その横にはノート。

覚えたことが、少しずつ書き込まれている。

「SEO」

「検索意図」

「タイトル」

「見出し」

知らない言葉ばかりだった。

最初は意味すら分からなかった。

だが、何度か読んでいるうちに、少しずつ繋がってくる。

「……文章を書くにも、いろいろあるんだな」

今まで文章を書くといえば、メールや簡単な報告くらいだった。

誰かに読んでもらう文章を、自分で考えて書く。

そんなことは、ほとんどしたことがない。

本を閉じる。

時計を見る。

22時38分。

まだ少し時間がある。

いつもなら、このままスマホを見て寝るところだった。

だが今日は、少し違った。

(……読んでるだけでいいのか?)

ふと、そんな疑問が浮かぶ。

本には何度も書かれていた。

「実際に書いてみることが大切」

「……書いてみるか」

パソコンを開く。

新しい文書を作る。

真っ白な画面。

カーソルだけが点滅している。

「…………」

何を書けばいいのか分からない。

いざ自由に書けと言われると、何も出てこなかった。

(題材……)

少し考える。

工場。

コンビニ。

副業。

自分が知っていることなんて、それくらいしかない。

「……コンビニでいいか」

タイトルを打つ。

『深夜のコンビニで働いて分かったこと』

少しダサい気もする。

だが、とりあえず気にしない。

文章を書き始める。

一行。

二行。

三行。

しかし――

「……難しいな」

すぐに手が止まった。

頭の中では分かっている。

でも、それを文章にするとうまくまとまらない。

書いては消す。

また書く。

「これ、何が言いたいんだ?」

自分で読んで、自分で突っ込む。

本を開く。

パソコンを見る。

また本を見る。

その繰り返し。

気づけば一時間近く経っていた。

「……全然進まねぇ」

思わず椅子にもたれかかる。

以前なら、ここで閉じていたかもしれない。

(やっぱ俺には無理だ)

そう決めつけて。

だが――

今回は少しだけ違った。

テツヤはもう一度画面を見る。

(別に、誰かに見せるわけじゃないしな)

失敗してもいい。

うまくなくてもいい。

練習なのだから。

そう考えると、少し気が楽になった。

文章を全部消す。

そして、もう一度書き始める。

今度は難しく考えない。

自分が経験したことを、そのまま書く。

深夜に来る客。

忙しくなる時間。

意外と大変な商品の補充。

眠気との戦い。

少しずつ文章が増えていく。

30分後。

「……できた」

画面には、800文字ほどの文章があった。

決してうまくない。

読み返してみる。

「同じこと書いてるな……」

直す。

「ここ長いな」

削る。

「こっちの方が分かりやすいか」

書き直す。

さらに30分。

ようやく形になった。

テツヤは椅子にもたれ、画面を眺める。

誰かに褒められたわけではない。

お金になったわけでもない。

仕事をもらったわけでもない。

ただ、自分で文章を書いただけ。

それなのに――

「……なんか、ちょっと嬉しいな」

不思議な感覚だった。

これまでの副業は、誰かから与えられた作業をこなすものだった。

決められた内容を入力する。

指示された通りに整理する。

だが今は違う。

ゼロから、自分で作った。

完成度は低い。

それでも、自分のものだった。

翌日。

工場の休憩時間。

スマホで昨日書いた文章を読み返す。

パソコンで見たときとは、少し印象が違う。

「……ここ直した方がいいな」

気になるところが次々に見つかる。

だが、それも嫌ではなかった。

むしろ――

(もっと良くできそうだな)

そんな気持ちが出てくる。

自分でも少し驚いた。

以前なら、できない理由を探していた。

今は、どうすればできるかを考えている。

その日の夜。

コンビニから帰宅する。

少し疲れている。

それでもパソコンを開いた。

昨日の文章を修正する。

そして、新しい文書を作る。

今度は何を書こう。

少し考える。

「工場勤務で身についたこと」

タイトルを入力する。

「……これでいいか」

また書き始める。

もちろん、すぐには書けない。

何度も止まる。

調べる。

書き直す。

それでも、昨日よりは少しだけ早い。

(……慣れってあるんだな)

小さく笑う。

数日後。

ノートには、新しい言葉が増えていた。

「読む」

「調べる」

「書く」

「直す」

そして、その下に――

「やってみる」

テツヤはその言葉を見つめる。

勉強することは大切だ。

知識を増やすことも必要だ。

でも、それだけでは何も起きない。

実際にやってみて初めて、

分からないことが分かる。

できないことが分かる。

そして――

できることも分かる。

「……そういうことか」

テツヤは小さくつぶやいた。

ネットワークビジネスの集まりでは、

「行動した人だけが未来を変えられる」

何度もそんな言葉を聞いた。

あの言葉自体が間違っていたわけではないのかもしれない。

ただ――

誰かに言われた通りに動くことだけが、「行動」ではない。

自分で考えて。

自分で選んで。

小さく試してみる。

それも、立派な行動なのだ。

テツヤはパソコンを見る。

そこには、自分が書いた二つの文章。

大したものではない。

誰にも読まれていない。

一円にもなっていない。

それでも――

ゼロではない。

「……もう一個、書いてみるか」

新しい文書を開く。

真っ白な画面。

以前なら、その白さが怖かった。

今は少し違う。

何を書こうか。

そう考える自分がいる。

テツヤはキーボードに手を置いた。

大きなことは、まだ何もできない。

未来が見えたわけでもない。

それでもいい。

今の自分にできることから、

小さく始めればいい。

カタカタと、キーボードの音が静かな部屋に響き始めた。

【作者コメント】

第31話では、テツヤが「学ぶ」という段階から、「実際にやってみる」という段階へ進みました。

今回、テツヤが完成させた文章は、誰かから仕事として依頼されたものでも、大きなお金を生み出すものでもありません。

それでも、この経験はテツヤにとって大きな意味があります。

これまでのテツヤは、「変わりたい」と思いながらも、すぐに結果を求めたり、誰かが示してくれる道に期待したりする部分がありました。

しかし少しずつ、自分で考え、自分で選び、自分で試すことを覚え始めています。

特に今回大切にしたのは、「最初からうまくできなくてもいい」ということです。

本を一冊読んだからといって、急にスキルが身につくわけではありません。800文字の文章を書いたからといって、すぐに収入が増えるわけでもありません。

それでも、昨日までできなかったことを一つやってみる。

その小さな積み重ねが、やがて自分自身の選択肢を増やしていくのだと思います。

第30話の「自分に投資する」から、第31話の「小さく始めてみる」へ。

テツヤの変化はまだ小さなものですが、「誰かに人生を変えてもらう」物語から、「自分で人生を作っていく」物語へと切り替わり始める重要な回として、非常に自然な流れになると思います。