オリジナルWeb漫画:不屈な父親奮闘記シリーズ 第31話
大自然でのキャンプ失敗を経て、「外ではなく、日常の質を高めることこそ本質だ」と悟ったパパ。次なるテーマとして掲げたのは――“朝の支配”。
「充実した一日は、質の高い朝食から始まる。つまり朝を制する者が、人生を制する!」
その信念のもと、今回も例によって“形”から入るパパは、驚異的なスピードで設備投資を開始する。
まずは全自動コーヒー焙煎機。生豆から焙煎・抽出までを一貫して行うプロ仕様だ。さらに、熱伝導に優れた職人手作りの南部鉄器ホットサンドメーカー。そして、1枚数千円という“芸術品レベル”の高級食パンを取り寄せる。
キッチンは一夜にして“朝活ラボ”へと変貌した。
「形が整えば、勝利は目前」
エプロン姿で腕を組み、満足げに頷くパパ。その背後で、ママと子どもたちは「また始まった……」という視線を送る。
迎えた決行当日。
パパのこだわりは想像以上だった。
コーヒー豆はミクロン単位で粒度を調整し、抽出温度は秒単位で管理。パンの表面温度は赤外線温度計で測定し、焼き加減は“黄金比”に基づいて制御される。
さらには、ホットサンドの具材配置にも幾何学的理論を持ち込み、「熱の対流効率」まで計算に入れていた。
「これはもはや料理ではない……再現性のある“成功プロセス”だ」
完全に自分の世界に入り込むパパ。
キッチンには異様な緊張感が漂い、子どもたちも思わず息を呑む。
そして、ついに仕上げの工程。
完璧に焼き上がったホットサンドを、慎重に裏返そうとしたその瞬間――
「グキッ!!」
鈍い音とともに、パパの体が固まる。
「うおぉぉ……!」
以前痛めた腰が、ここで再発。
そのままキッチンで悶絶し、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「ば、馬鹿な……俺の“勝利”が……」
だが、すぐに思考が切り替わる。
「いや……違う」
床に横たわりながら、静かに呟く。
「今の俺にとって、この香ばしい香りに包まれて動かないことこそ……最高の栄養補給……」
完全に論理をすり替えたパパは、そのままキッチンの床に“安置”される。
一方その頃。
ママは冷静にトースターを取り出し、市販の食パンを入れる。
チン。
数分後、バターとジャムが並んだ“いつもの朝食”が完成。
「いただきます」
子どもたちは笑顔で頬張る。
「やっぱりこれが一番おいしいね」
その光景を、床から見上げるパパ。
「……これこそが、大地のエネルギーとの共鳴」
「究極のマインドフルネス……」
目にうっすら涙を浮かべながら、どこか満足げに呟く。
こうしてパパの“最高のモーニングルーティン”は――
完成することなく、概念だけが進化した。
※なお、この後パパは腰を悪化させ、数日間動けなくなった。


