【サラリーマン奮闘記】第21話「社用車の罠」

オリジナルマンガ

今月から、営業部に配備された社用車がすべて「スマート社用車」へと入れ替わった。
事故防止と業務効率化を目的に、GPSによる走行履歴、停車時間、さらには車内外カメラによる映像まで、すべてがAIで解析され、クラウドへ自動送信されるという徹底した管理システムである。

「これで無駄な寄り道や私的利用は完全に可視化されますね」

総務のミユキが淡々と説明する中、社員たちはどこか落ち着かない表情を浮かべていた。
その中でただ一人、斎藤課長だけが余裕の笑みを浮かべている。

「ふん……機械に人間の機転が読めるものか」

――その油断が、すべての始まりだった。

金曜の夕方。
仕事終わりのタイミングを見計らったかのように、斎藤課長がマサシの元へやってくる。

「マサシ!この土日、隣県の大型商業施設へ“極秘視察”だ。社用車、押さえとけ」

その口ぶりは妙に軽い。

「写真はあとで送る。お前はそれっぽく報告書をまとめとけ。いつものやつだ」

(……またか)

マサシの胃が静かに痛む。
だが今回は、何かが違っていた。

予約画面を開いたマサシの目に飛び込んできたのは、システム仕様の注意書き。

『※AIドラレコは、走行ルート・滞在場所に加え、車内カメラにより乗車人数および属性(成人・小児)を自動判定し、日報として管理部へ送信されます』

(……完全に記録される)

ほんの一瞬だけ、マサシは考える。

だがすぐに、無表情のまま操作を続けた。

課長の車両予約を承認し、さらに――
「視察報告書(自動生成モード)」の送信先に、総務部・ミユキを追加。

そして静かに――

ターンッ。

エンターキーが押し込まれた。

――週明け、月曜日。

フロアの中央に、異様な静寂が広がる。

その中心で、ミユキが一枚のレポートを手にしていた。

「斎藤課長」

低く、冷たい声。

「土日の“極秘視察”、お疲れ様でした」

一同の視線が集まる。

「AI運行日報によると、目的地は――」

一拍の間。

「“夢の国テーマパーク”となっています」

ざわつく空気。

「さらに、車内カメラの解析では乗車属性が
成人男性1名、成人女性1名、小児2名」

完全に家族構成である。

「加えて、車内音声解析により、約3時間にわたりアニメソングを大合唱していたログも確認されています」

静寂。

そしてミユキが、ゆっくりと顔を上げる。

「弊社はいつから、エンタメ事業の現地調査を家族同行で行うようになったのでしょうか?」

その隣で、部長が無言で腕を組む。

圧が、重い。

「ち、違う!これはその……市場調査の一環で……!」

必死に取り繕おうとする課長。

だが、自らの発言で矛盾に気づく。

「いや、俺は家族で……あっ……!」

完全な自爆。

その場に崩れ落ちる。

「な、なんなんだこの車はぁぁ!!中まで監視してるのか!?」

涙目で叫ぶ斎藤課長。

フロアに広がる、冷たい視線。

少し離れた場所で、その光景を静かに見つめるマサシ。

ポケットから胃薬を取り出し、水で流し込む。

(……システムは嘘をつかない)

小さく息を吐く。

こうしてまた一つ、声なき反撃が成功した。

誰にも気づかれないまま――

静かに積み重なる、“小さな勝利”。