【サラリーマン奮闘記】第20話「領収書の罠」

オリジナルマンガ

月末。オフィスに重たい空気が漂う季節――経費精算締切直前。

「マサシ!」

その静寂を破るように、斎藤課長の声がフロアに響く。次の瞬間、1枚の領収書がマサシのデスクに投げ込まれた。

「これ、処理しとけ!」

受け取った紙を見た瞬間、マサシの眉がわずかに動く。

金額――15万円。
但し書き――「品代」。

(……雑すぎるだろ……)

内心でそう呟きながらも、顔には出さない。

「A社への接待用贈答品ってことで落とすからな!細かいことは気にするな!」

(いや、気にするしかないだろ……)

実態は、課長の完全な私的購入。
ゲーミングPC、VR機器、そして“魔法少女☆キラリ”のフィギュア。

どこをどう見ても接待ではない。

だがマサシは逆らわない。

「……承知しました」

無表情で領収書を受け取り、静かに席へ戻る。

そのとき、ふと視線の先にある新しいシステムが目に入る。

――今月から導入された、最新の経費精算システム。

「AI搭載OCR+インボイス連携」

ただのスキャンではない。
文字を読み、データを照合し、“事実”を復元するシステム

(……なるほど)

マサシは無言のまま領収書をスキャナーへ差し込む。

ウィィィン――

機械音とともに、画面に解析が表示されていく。

「AI解析中……」

一瞬の沈黙。

そして次の瞬間、画面に“真実”が映し出される。

――購入店舗:家電量販店
――POS連携データ取得完了

『自動入力:
ゲーミングPC(120,000円)
VRゴーグル(25,000円)
魔法少女☆キラリ フィギュア(5,000円)』

(……完全にアウトだろ)

マサシの指が止まる。

ここで“修正”することもできる。
課長の意図通り「贈答品」として入力することも可能だ。

だが――

「……ありのままが最適解だ」

淡々と呟き、マサシは選択する。

【AI自動入力データ:そのまま反映】

そして――

ターンッ!

迷いなく申請ボタンを押し込む。

(システム上の真実を否定する理由はない)

それだけだった。

――数日後。

フロアの中央に、異様な静けさが広がる。

その中心に立つのは、総務のミユキ。

そして、青ざめた斎藤課長。

「斎藤課長」

静かで、冷たい声。

「A社様への接待として、
“魔法少女フィギュア”と“VR機器”を贈答されたとの申請ですが――」

一拍の間。

「御社はいつからそのような業界になられたのですか?」

周囲の社員が一斉に視線を向ける。

「い、いや……それは……!」

狼狽する課長。

「し、品代って書いたはずだろ!?なんで中身まで……!」

その場に膝をつくように崩れ落ちる。

背後では部長が腕を組み、深いため息。

「……斎藤、お前はシステムを舐めすぎたな」

静かに、しかし確実に詰められていく。

その様子を、少し離れた場所から見つめるマサシ。

ポケットから胃薬を取り出し、水で流し込む。

(……人は嘘をつくが、データは嘘をつかない)

ふっと小さく息を吐く。

今日もまた一つ。

声に出さない“反撃”が成功した。

――誰にも気づかれないままの、

小さな勝利。