【不屈な父親奮闘記】第29話「パパ、最高の休息をプロデュースする」

オリジナルマンガ

前回の無理なトレーニングの代償として、見事に腰を痛めてしまったパパ。ソファに横たわりながら「動けない……」と苦悶の表情を浮かべつつも、その目だけはどこかギラついていた。

「現代人に足りないのは……質の高い休息だ」

突如として語り出すパパに、家族は嫌な予感しかしない。

「俺自らが、究極の“癒やし”を作り出す……!」

こうしてまたしても、パパの“形から入るシリーズ”が始まった。

動けないにも関わらず、スマホ片手に次々と高級アイテムを注文。体圧分散に優れた高級低反発クッション、リラックス効果を謳うお香セット、そして臨場感あふれる自然音を再現する高音質スピーカー。さらには「無重力姿勢」を再現する最新リクライニングチェアまで導入し、リビングは瞬く間に“パパ専用リラクゼーション空間”へと改造されていく。

数日後。

「どうだ、この空間……!」

満足げに語るパパの周囲には、異様な光景が広がっていた。

焚きすぎたお香の煙が部屋中に充満し、視界はうっすら白く霞んでいる。さらにスピーカーから流れているのは、なぜか“穏やかな波の音”ではなく「嵐の海」。轟音のような波音が部屋を揺らし、床すら震えているかのようだ。

「この香りと音の波が……心を浄化する……!」

恍惚の表情で語るパパ。

しかし、家族にとってはただの地獄だった。

「煙い!」「うるさい!」「避難よ!」

ママと子どもたちは顔を覆いながらリビングから退散。せっかくの“癒やし空間”は、わずか数分で“立入禁止区域”と化した。

一方パパは、最新の無重力チェアに身を預け、完全にリラックスモードへ。

「これだ……これこそ究極の休息……」

だが、その直後。

「……あれ?」

微動だにできない。

体にぴったりフィットする設計が仇となり、腰を痛めた状態では全く起き上がれなくなってしまったのだ。

「うおお……腰が……固定された……!」

必死にもがくが、チェアはびくともしない。

その頃、避難していた家族は様子を見ながら戻ってくる。

煙は多少落ち着いたものの、まだどこか香りが残り、音も完全には止まっていない。

「……結局、普通が一番だね」

そう言いながら、家族は静かに食卓を囲む。

その横で、チェアに埋もれたまま動けないパパ。

「……これこそが……動かざること山の如し……」

苦しそうな表情で、無理やりポジティブに解釈する。

「究極の“静”……」

その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

数日後。

パパは腰をさらに悪化させ、結局しばらく安静生活を余儀なくされることになる。

そしてリビングからは、あの“こだわりの装置一式”が静かに撤去された。

「来年は……普通の布団にしましょう……」

ぽつりと呟くパパ。

だがその目には、まだどこか“次のこだわり”を探す光が残っていたのだった。