オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第17話
今週は、全社員必修の「コンプライアンス&情報セキュリティ研修」の受講期間だった。動画を視聴し、最後にテストを受けて満点を取らなければ修了できないという、地味に時間のかかる内容である。
真面目な社員たちがコツコツと受講を進める中、当然のように斎藤課長はやる気ゼロだった。
「こんなの、時間の無駄だ」
そう言いながら、デスクではスマホでゴルフ動画を眺めている。
そして、いつものようにタケルへ声をかけた。
「タケル!」
「俺のIDとパスワード教えるから、代わりにやっといてくれ」
さらりと、とんでもないことを言う。
「コンプラ問題なんて簡単だろ? お前なら満点取れる」
「俺は忙しいんだ」
(※全然忙しそうではない)
タケルの胃が、またしても静かに痛み出す。
(……コンプライアンス研修の替え玉受験を強要するって)
(それ自体が一番アウトでは……?)
しかし、ここで正面から拒否しても無駄なことは分かっている。
タケルは無言で自席に戻り、新しく導入されたeラーニングシステムのマニュアルを開いた。
その中の一文に、目が止まる。
『※不正受講防止のため、テスト中はWebカメラによるAI顔認証監視が常時作動します』
タケルの思考が静かに回り始める。
(……なるほど)
タケルは課長に向き直る。
「承知しました。課長のお席のPCで受講しておきます」
素直に引き受けた。
課長は満足げにうなずく。
「そうこなくちゃな!」
そして再びスマホへ視線を落とした。
タケルは課長のPCの前に座る。
Webカメラの角度を調整する。
自分の顔が、真正面からしっかり映るように。
(……記録は、正確に)
そのままテストを開始。
問題は確かに難しくはない。タケルは淡々と解答を進めていく。
カメラはその様子を、一定間隔で自動撮影していた。
無表情で画面を見つめるタケルの顔。
何枚も、何枚も。
そして――
100点。
【受講完了】
ターンッ。
翌朝。
フロアに、総務のミユキの声が響く。
「斎藤課長」
その一言で空気が変わる。
「昨日のコンプライアンス研修について確認させてください」
タブレットを操作しながら続ける。
「テスト中の顔認証ログを確認したところ」
「登録写真との一致率が……**0%**でした」
静まり返るフロア。
ミユキの画面には、課長のIDでログインされた状態で、カメラに向かっている“タケルの顔”が何十枚も表示されていた。
完全な証拠だった。
「部下に替え玉受験をさせる行為は」
「重大なコンプライアンス違反です」
「至急、コンプライアンス委員会へ同行してください」
課長の顔がみるみる青ざめる。
「な、なんだその監視システムは!?」
「そんなの聞いてないぞ!!」
しかしミユキは冷静だった。
「マニュアルに明記されています」
逃げ場はない。
そのまま連行される課長。
フロアには、静かな空気が戻る。
タケルは自席に戻り、引き出しからいつもの胃薬を取り出す。
水で流し込み、ゆっくりと息を吐く。
(……コンプライアンスは、守るものですからね)
胃の痛みは消えない。
だが、今日もまた確かに一つ。
小さな勝利が積み重なっていた。


