オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第5話
「最近の若手は覇気がない!」
金曜日の夕方、フロアに響いたのは斎藤課長の怒鳴り声だった。
「今日は俺が鍛え直してやる!」
そう言うや否や、課長は半ば強引にチーム全員を連れ出す。
目的地は、駅前にあるそこそこ高級な和食店。木の看板に筆文字が書かれた、いかにも“接待向け”の店だった。
席につくなり斎藤は大きな声で宣言する。
「今日は無礼講だ!」
「俺の奢りだ!……まあ、会社の経費だけどな!」
そう言ってメニューを指差す。
「一番高い刺身盛り合わせだ!」
「この特選地酒も持ってこい!」
「あと伊勢海老の焼き物も!」
店員が驚くほどの勢いで注文を重ねていく斎藤。
ショウはすでに魂が抜けたような顔で相槌を打っていた。
「はぁ……そうなんですね……」
その間にも始まるのは、恒例の**「俺の若い頃は」シリーズ**。
「俺の若い頃はな!」
「朝まで働いてそのまま営業行ったもんだ!」
武勇伝は止まらない。
タケルはスマホをちらりと見ながら、黙って時間が過ぎるのを待っていた。
そして、気づけば2時間経過。
テーブルの上には空いた酒瓶と、伊勢海老の殻の山。
斎藤は満足そうに腕を組む。
「よし、今日はこのへんでいいだろう」
そう言って店員にカードを差し出す。
「これで頼む」
会社の法人カード――いわゆるコーポレートカードだった。
しかし数分後。
店員が困惑した表情で戻ってくる。
「申し訳ございません……」
「こちらのカードですが……利用停止のエラーが出ておりまして」
「はあ!?」
斎藤が声を荒げる。
「何かの間違いだろ!」
しかし店員は申し訳なさそうに首を振る。
その時、タケルが静かに言った。
「課長……」
「今朝のメール、見てないんですか?」
斎藤が振り向く。
「メール?」
タケルはスマホの画面を見せる。
そこには社内通知。
『緊急経費削減通達』
内容はこうだった。
本日正午より、社内飲食に関する交際費の利用を全面凍結する。
斎藤の顔が固まる。
タケルは続けた。
「だから店に入る前に、僕……」
「“本当にいいんですか?”って聞きましたよね」
沈黙。
テーブルには、
高級酒の空瓶。
刺身の皿。
伊勢海老の殻。
そして店員が差し出す伝票。
128,000円。
斎藤は乾いた笑いを漏らす。
「……そ、そうだったかな……」
震える手で財布を取り出す。
中には個人のクレジットカード。
そして小さく呟く。
「……領収書は……」
「上様で……」
翌週。
会社の給湯室でタケルは気づいた。
これまで毎日持ってきていた斎藤課長の豪華な愛妻弁当が――
カップ麺に変わっている。
タケルは何も言わず、そっとコーヒーを飲む。
(……128,000円の味、ですか)
その光景を、静かに見守るのだった。


