オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第29話
【前回のあらすじ】
ネットワークビジネスのミーティングに何度も参加したテツヤは、少しずつ「人を紹介すること」が中心になっていることへ違和感を覚え始める。そして、自分が納得できていないものを友人へ勧めることはできないと考え、「入会しない」という結論を出した。
その決断を佐藤へ伝えると、佐藤は驚きながらも「ちゃんと考えて決めたなら、それが一番だよ」とテツヤの意思を尊重する。
その夜、テツヤはコミュニティのグループチャットを静かに退会し、ノートには「流されず、自分で決めた」と書き残した。
大きな成功ではない。しかし、自分の意思で人生を選んだことが、テツヤにとって何より大きな一歩となった。
【今回の見どころ】
今回はネットワークビジネス編の締めくくりです。佐藤を敵として描くのではなく、「考え方の違い」として別れることで、テツヤ自身の成長をより際立たせています。そして、自分で考え、自分で選ぶことの大切さを改めて実感し、新しい目標へ歩き出す姿が描かれます。ここから物語は、本当の意味でテツヤ自身の挑戦へと進んでいきます。
【本文】
朝。
工場へ向かう道。

いつもと同じ景色だった。
駅前の交差点。
コンビニ。
歩道橋。
何一つ変わっていない。
それでも、テツヤの足取りは少しだけ軽かった。
(ちゃんと決められた。)
その事実だけで十分だった。
工場へ着くと、更衣室で作業着に着替える。
ロッカーを閉めたところで、後ろから声がした。
「おはよう。」
佐藤だった。
一瞬だけ空気が止まる。
昨日、入会を断ったばかりだ。
少しだけ気まずさを覚える。
「おはようございます。」
テツヤは軽く頭を下げる。
佐藤はいつも通り笑っていた。
「昨日はありがとな。」
「え?」
思わず聞き返す。
「ちゃんと本音を話してくれて。」
テツヤは黙る。
佐藤は続けた。
「無理にやっても続かないからさ。」
「自分で決めるのが一番だよ。」
その言葉を聞いて、胸の奥が少し温かくなる。
(やっぱり悪い人じゃない。)
そう思った。
昼休み。
いつものように二人で缶コーヒーを飲む。
仕事の話。
天気の話。
何気ない会話。
ネットワークビジネスの話は、一度も出なかった。
その自然さが、逆にありがたかった。
帰り際。
佐藤が笑いながら言う。
「また困ったら相談しろよ。」
「副業でも就職でも。」
「俺に分かることなら話くらい聞くから。」
テツヤも笑う。
「ありがとうございます。」
その一言は、本心だった。
夜。
アパートへ戻る。
机の上には、これまで書き続けてきたノート。
ページをめくる。
「不採用」
「副業失敗」
「時間管理」
「違和感」
「流されず、自分で決めた」
積み重なった文字を見て、小さく笑う。
(結構書いたな。)
どのページも失敗ばかりだった。
でも、その全部が今の自分につながっている。
新しいページを開く。
ゆっくり書く。
「これからやること」
しばらく考える。
そして、一つずつ書き始めた。
「副業を続ける。」
「生活リズムを崩さない。」
「転職も諦めない。」
さらに最後に書く。
「人に流されない。」
ペンを置く。
その一行が、一番しっくりきた。
窓の外を見る。
夜の街。
少し前まで、この景色は「何も変わらない毎日」に見えていた。
でも今は違う。
変わっているのは、自分だった。
忙しい毎日は続く。
工場もある。
コンビニもある。
副業もある。
それでも、不思議と苦しくなかった。
全部、自分で選んでいるから。
スマホが震える。
大学時代のグループチャットだった。
「今度また集まろう!」
誰かのメッセージ。
テツヤは少しだけ笑う。
以前なら返信できなかった。
でも今回は違う。
「いいね。予定合わせよう。」
送信する。
画面を閉じる。
昔の自分なら、「変わってから会おう」と考えていた。
でも今は違う。
変わる途中でも、人と会っていい。
そう思えた。
ベッドに腰掛ける。
静かな部屋。
小さくつぶやく。
「……まだ途中だな。」

成功したわけではない。
夢を叶えたわけでもない。
それでも、一つだけ確かなことがある。
今日も、自分で選んで生きている。
それだけで十分だった。
窓から入る夜風が、少しだけ心地よかった。
【作者コメント】
ネットワークビジネス編は、この第29話で一区切りです。
このエピソードで描きたかったのは、「ネットワークビジネスの善悪」ではなく、「自分で考えて選択すること」の大切さでした。佐藤は最後までテツヤを否定せず、テツヤも佐藤を否定しません。それぞれが違う考え方を持ち、お互いを尊重した結果として別々の道を歩みます。
テツヤは、就職活動、副業、失敗、そして今回の経験を通して、ようやく「自分の人生を自分で決める」という土台を手に入れました。ここから先は、その土台の上で本当の成長が始まります。


