【サラリーマン奮闘記】第22話「同調圧力の罠」

オリジナルマンガ

ある日の定例会議。
いつものように重苦しい空気の中、斎藤課長が満を持して立ち上がる。

「部署の親睦を深めるため、毎月休日に『早朝ボランティア清掃&強制バーベキュー大会』を開催する!」

ドヤ顔で言い放たれたその企画は、誰がどう見ても“善意を装った強制イベント”だった。

(……休日に早朝集合して掃除、その後BBQって……何の罰ゲームだよ……)

マサシは内心で強く拒絶しながらも、周囲を見渡す。

しかし――

「素晴らしい企画です!」
「さすが課長!部の一体感が高まりますね!」
「絶対参加します!」

拍手と笑顔。
完璧すぎる“賛成の演技”。

だが、その顔はどれもどこか引きつっている。

(……みんな、本当は嫌だと思ってるのに……)

その違和感に、マサシは強烈な孤独を感じる。

その時、会議の冒頭で説明されていた新システムを思い出す。

――匿名AIコメントシステム。

スマホから匿名で意見を送信すると、AIが内容を要約し、巨大スクリーンにリアルタイム表示する仕組みだ。

若手の“本音”を吸い上げるために導入されたというが――

現実は違った。

画面には次々と、空虚なコメントが流れていく。

「#課長最高」
「#全力で参加します」
「#チームワーク向上」

どれも中身のない“安全な言葉”ばかり。

(……結局、ここでも本音は出ないのか……)

マサシは小さくため息をつく。

だが、その指は止まらない。

スマホの画面で、静かにモードを切り替える。

――【ロジカル分析(悪魔の代弁者)モード】

「……この気持ち悪い空気……データで壊すしかない」

AIに入力する。

・休日強制参加による労働基準法違反リスク
・過去イベントと離職率の相関
・費用対効果の分析
・モチベーション低下の統計

数秒で、すべてが整理される。

そして――

マサシは無表情のまま、送信ボタンを強く押し込んだ。

ターンッ!

次の瞬間。

スクリーンが突然、赤くフラッシュする。

それまでの軽いコメントが一瞬で押し流され、巨大な警告文が表示された。

『AI判定:本企画はコンプライアンス違反リスク極大。モチベーション98%低下。費用対効果著しく低下。【即時廃案】を推奨』

会議室が、凍りつく。

「な、なんだこの空気読めないAIはぁぁ!!」

顔面蒼白の斎藤課長。

しかし――

その直後、空気が一変する。

「……AIのデータなら仕方ないですね」
「客観的に見てリスクが高いなら見送りましょう」
「残念ですが、今回は中止が妥当かと……」

先ほどまで賛成していた同僚たちが、一斉に方向転換する。

その表情はどこか安堵していた。

(……人の意見には従わないのに、AIには従うんだな……)

マサシは冷めた目でその光景を見つめる。

結局、彼らが従っているのは“正しさ”ではない。

「責任を負わなくていい理由」なのだ。

会議は静かに終了し、企画は“AIの判断”として見送られた。

誰も傷つかず、誰も責任を取らない形で。

背後で同僚たちが小声で笑いながら安堵している中、マサシはポケットからいつもの胃薬を取り出す。

水で流し込みながら、小さくつぶやく。

「……これが、今の会社か……」

だがその胸の奥には、確かな感覚が残っていた。

――自分の意思ではない。
――だが確実に、空気を壊した。

それは誰にも気づかれない、しかし確かな――

“小さな勝利”だった。