【不屈な父親奮闘記】第28話「パパ、肉体改造に目覚める」

オリジナルマンガ

スマートホームの誤作動によって自宅から締め出され、さらには不審者として警察に通報されるという屈辱的な出来事を経験したパパ。あの日の寒空の下で震えながら、彼はある決意を固めていた。

「真の家主とは……システムに頼るのではない」

「自らの肉体で家族を守る存在だ!」

妙な方向に覚醒したパパは、その翌日から“肉体改造”に乗り出す。

もちろん今回も、彼は迷わず「形」から入った。

プロ仕様のコンプレッションウェアに身を包み、心拍数や消費カロリーをリアルタイムで測定できる最新スマートウォッチを装着。さらに、リビングの半分を占拠する巨大なベンチプレスセットまで導入するという本気ぶりだ。

「ここが俺の聖域だ……!」

キラリと光る汗、無駄に決まったポージング。

しかし、その様子を見守る家族の視線はどこか冷ややかだった。

数日後。

パパの情熱は、なぜかトレーニングそのものではなく「管理」に向かい始める。

机の上にはプロテイン、サプリメント、電子スケール、そしてノートPC。

「トレーニングよりも重要なのは、数値管理だ!」

そう言いながら、栄養管理ソフトに向かってカチャカチャと入力を続ける。

タンパク質の摂取量はグラム単位で調整。
サプリメントの配合比率は小数点第二位までこだわる。
インターバルは秒単位で設定し、無駄な1秒すら許さない。

「これが“科学的トレーニング”だ……!」

その姿は、もはや研究者のようだった。

そして満足げにうなずく。

「ここまで完璧に準備した時点で……」

「今日のトレーニングは、実質完了と言ってもいい」

そう言い切ると、プロテインを一気に飲み干し、鏡の前でポーズを決める。

筋肉はまだほとんど変わっていないが、本人の満足度だけは異様に高かった。

そして、ついにその時が来る。

「よし……実践だ」

パパはベンチプレスの前に立つ。

重りを確認し、呼吸を整え、ゆっくりとバーベルを握る。

「これが……俺の限界……!」

グッ……!

腕に力を込める。

しかし――

ピキッ。

次の瞬間、表情が固まる。

「ぐっ……!? これは……!」

腰に走る鋭い痛み。

以前痛めた箇所が、見事に再発していた。

そのままバーベルを戻し、ゆっくりと床へ崩れ落ちる。

「……今の俺に必要なのは……無理をしないことだ」

苦しそうな顔のまま、必死に言い訳を組み立てる。

「筋肉は、休ませることで成長する……」

「つまり……“休むこと”こそが最高のトレーニング……!」

どこかで聞いたような理論だった。

そのままリビングの床に横たわるパパ。

動けないまま、天井を見つめる。

一方その頃、家族はダイニングで普通に食事をしていた。

「パパ、大丈夫?」

子どもの無邪気な声。

しかしママは苦笑いしながら言う。

「プロテイン、料理に混ぜたら意外といけるわね」

誰も深刻には捉えていなかった。

数日後――

パパは見事に腰を痛め、しばらく動けなくなるのだった。

リビングに鎮座するベンチプレスだけが、静かに存在感を放っている。

「……次は“柔軟性”からだな……」

そう呟くパパの目は、まだどこか懲りていなかった。

そして今日もまた、彼の中では確かに一つ。

間違った方向の進化が進んでいたのだった。